比翼仕立て

比翼仕立て（ひよくじたて）について

比翼仕立て、または比翼と呼ばれる技法は、衣服の美しさと機能性を両立させるために用いられています。この技法は、着物や洋服において、2枚の生地を重ねて着るかのように仕立てることを目的としています。特に、着物の袖口、振り、衿、裾回しなどの部分が巧みに二重に仕立てられることで、視覚的に重ね着の印象を与えます。また、人形仕立てとも称され、その精巧さから日本の伝統的な衣装文化に深く根付いています。

和服における比翼仕立て

和服では、留袖や振袖において、この比翼仕立てが重要な役割を果たします。留袖はその名の通り、特別な式典や祝賀の場に適した装いであり、「祝いを重ねる」という意味合いから、本来は白羽二重の下着を重ねて着用されていました。このスタイルは比翼重ねと呼ばれ、後に付け比翼（つけびよく）と呼ばれる方法に進化します。この付け比翼は、別布を縫い付けることで二重の見え方を実現し、今日の着物スタイルにも広く用いられています。

振袖も同様に、以前は二枚の振袖を重ねて着用するスタイルが存在しましたが、現在では比翼仕立てが主流となっています。染織研究家の木村孝によれば、70年前と比較して、帯の結び方や半衿の見せ方に変化があり、着物を二重に着ることが困難になっている点が、比翼仕立てへの移行の要因の一つと考えられています。

留袖では、白羽二重の付け比翼仕立てが正式とされ、一方、振袖や訪問着、色無地などでは、付け比翼を模した別布の伊達衿（だてえり）が半衿と着物の間に見えるスタイルも一般的です。伊達衿は、比翼衿や伊達比翼とも呼ばれ、その洗練された美しさが着物にさらなる魅力を与えています。

洋服における比翼仕立て

洋服の場合、比翼仕立ては特に上前の前端を二重に仕立てることによって、そのスタイルの魅力を引き立てます。具体的には、隠しボタン、隠しスナップ、隠しジッパーといった工夫が施され、見た目がすっきりとした印象に仕上がります。この技法はオーバーコート、ジャケット、トンビ、マント、吾妻コート、さらにはズボンの前あきなど、多様な洋服に使用されています。英語では「フライ・フロント（fly front）」または「フライ・ファスニング（fly fastening）」と呼ばれ、機能的かつシンプルなデザインが求められる現代の洋服デザインにおいても、その重要性を失っていません。

比翼仕立ては、伝統的な日本の着物文化から現代の洋服スタイルに至るまで、さまざまな形で衣類の美しさや着やすさを進化させている技法です。これにより、衣服はただの装いではなく、文化的な背景や歴史を反映した象徴的なアイテムとなっています。

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