比良おろし

比良おろし（比良颪）について

比良おろしは、滋賀県の比良山地東麓に吹く局地風です。特に、毎年3月26日に行われる天台宗の行事「比良八講」の前後に吹くものを「比良八講・荒れじまい」、または「比良八荒」と呼び、本格的な春の訪れを告げる風として知られています。

特徴

比良おろしは、若狭湾や丹波高地から琵琶湖に向かって、比良山地南東側の急斜面を駆け降りるように吹く北西の風です。この風は、特定の気圧配置と密接な関係があり、等圧線が北東から南西に走る時に発生しやすいとされています。強い比良おろしが吹く際には、比良山地の尾根の上に「風枕」と呼ばれる独特の雲が見られることがあります。

影響

比良おろしは、その強風によって様々な影響を及ぼします。

鉄道への影響

比良山麓を走るJR湖西線は、全線が高架構造であり、風を真横から受けるため、比良おろしの影響を非常に強く受けます。過去には以下のような事故が発生しています。

1979年10月：台風16号の接近により暴風警報が発令されていた中、北小松駅 - 近江舞子駅間を走行中の貨物列車が突風で脱線。貨車2両が高架下に落下。
1997年6月29日：比良駅構内にて、強風で運転を抑止されていたコンテナ貨物列車（電気機関車牽引・コンテナ貨車含め21両編成）のうち、空コンテナを積んだコンテナ車計3両が横転。

鉄道総合研究所の調査では、この横転事故時の最大瞬間風速は、コンテナ貨車の転覆限界風速である57メートル毎秒以上と推定されています。これらの事故を受けて、強風による規制値が引き下げられたため、現在ではJR湖西線は比良おろしの影響でしばしば運休となることがあります。2006年度には、運休は28回、延べ50時間に及んでいます。

JR西日本は、このような状況を改善するため、2007年10月に比良 - 近江舞子駅間の沿線山側に防風柵を設置しました。これにより、運転規制を行う基準となる風速を従来の秒速25メートルから30メートルまで引き上げることを可能としました。防風柵は2008年12月1日から運用が開始され、年間の運転見合わせ時間が、防風柵設置前の半分以下になる見込みです。

水難事故への影響

比良おろしは、しばしば突風を伴うため、水難事故の原因にもなっています。過去には以下のような事故が起きています。

1941年4月6日：琵琶湖遭難事故が発生し、旧制第四高等学校漕艇部員11名が犠牲となりました。この事故は「琵琶湖哀歌」として知られています。
2003年9月15日：ヨットファルコン沈没事件が発生し、死者・行方不明者7名が出ました。

まとめ

比良おろしは、滋賀県特有の局地風であり、その強風は鉄道の運行に影響を与えるだけでなく、水難事故の原因にもなり得る危険な風です。地域住民は、この風の特性を理解し、十分な注意を払う必要があります。

参考資料

ビワコダス（琵琶湖地域環境教育研究会）
大津の歴史事典 - 比良八講荒れじまい（大津市歴史博物館）

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