比較音楽学

比較音楽学

比較音楽学は、西洋古典音楽を基準とし、それ以外の地域の音楽との比較を通じて音楽の普遍的な特性を明らかにしようとした学問です。19世紀後半にその萌芽が見られましたが、20世紀初頭にドイツで学問分野として確立しました。

比較音楽学の成立と初期の研究

エーリヒ・フォン・ホルンボステルをはじめとする研究者たちは、世界各地の民族音楽の音律や音階を物理的に測定し、西洋音楽との差異を比較しました。この研究により、平均律と各民族の音律とのずれがデータとして収集されました。また、楽器の比較研究も盛んに行われ、楽器分類学の発展にも寄与しました。西洋音楽の伝統的な楽器分類（管・弦・打）に対し、自鳴楽器、膜鳴楽器、気鳴楽器、弦鳴楽器という新たな4分類法がVictor Charles Mahillonによって提唱されました。

研究対象の変化と民族音楽学の成立

比較音楽学は、当初西洋古典音楽を「発展した音楽」と位置づけ、非西洋音楽を「未熟で原始的な音楽」とみなす傾向がありました。そのため、音楽の起源や進化の過程を解明することを目的としていました。しかし、1950年代になると、ヤープ・クンストによって「民族音楽学」という用語が提唱され、比較音楽学は徐々に民族音楽学へと移行していきます。クンストは、「他のすべての学問以上に比較するわけではない」として、民族音楽学という名称の方が適切であると考えました。

現代における比較音楽学

民族音楽学が非西洋音楽の研究へと重点を置くようになった背景には、西洋音楽のみが音楽学の中心であったことや、西洋音楽も民族音楽の一種であるという認識が薄かったことがあります。しかし、1970年代以降、民族音楽学において、比較音楽学の当初の目的であった比較研究を通じた音楽の普遍的特性の探求が再び重要視されるようになりました。

比較音楽学は、その名称こそ使われなくなったものの、その比較という視点は民族音楽学に引き継がれ、音楽の多様性と普遍性を理解するための重要な研究手法として、現代でも生き続けています。

参考文献

『ニューグローブ世界音楽大事典』（第18巻）P102、講談社、1995年1月1日発行
『音楽大事典』（第4巻） 平凡社、1982年11月19日発行
『音楽大事典』（第5巻） 平凡社、1983年8月15日発行
『新編 音楽中辞典』音楽之友社、2002年3月10日発行、ISBN 4276-00017-3
クルト・ザックス著 野村良雄・岸辺成雄 訳『比較音楽学』p.1、p.12、p.93、p.94 全音楽譜出版社、1966年5月15日発行

関連項目

民族音楽学
楽器分類学
音楽学
東洋音楽学会
国際伝統音楽学会

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