毘瑠璃王

コーサラ国王・毘瑠璃王：釈迦族滅亡の影

紀元前6世紀頃、もしくは5世紀頃、古代インドのコーサラ国を治めた毘瑠璃王（ヴィルーダカ、ヴィドゥーダバとも呼ばれる）。彼は釈迦族を滅ぼした王として、仏教関連の文献にその名が記されています。その生涯は、謎と悲劇に彩られた波乱万丈なものでした。

複雑な出自

毘瑠璃王の出自は、複数の仏典で異なった記述が見られます。母については、釈迦族の召使いの娘という説が一般的ですが、他の文献ではマッリカー夫人（末利、摩利夫人とも）の子とする記述もあります。名前の由来も興味深いもので、祖母が王の愛者となるべきと述べた言葉を、耳の遠い大臣が誤って「ヴィドゥーダバ」と伝えたという逸話が残されています。

釈迦族との因縁

当時、コーサラ国とマガダ国は中インドを二分する大国であり、釈迦族は両国に挟まれた小勢力でした。毘瑠璃王の父、波斯匿王は釈迦族から妃を迎えようとしたものの、釈迦族は独自の血筋を誇り、婚姻を拒否。そこで、釈迦族のマハーナーマン（摩訶摩男）は、下女の娘を自分の娘として偽り、波斯匿王に嫁がせました。その娘が毘瑠璃王の母となり、毘瑠璃王は誕生します。

憎悪の芽生えと王位継承

毘瑠璃王が8歳の時、母の実家である釈迦族の地に弓術の修行に送られます。修行中に、新築された講堂の聖なる獅子の座に昇った毘瑠璃王を、釈迦族の人々は彼の出自を理由に辱め、門外に放逐しました。この屈辱的な経験は、毘瑠璃王の心に深い憎しみを植え付けました。一説には、波斯匿王もこの事実を知り、母子に冷淡になったものの、後に釈尊の説得で元の生活に戻ったとも伝えられています。

その後、毘瑠璃王は波斯匿王の留守中に王位を奪取します。

釈迦族殲滅と悲劇的な最期

王位に就いた毘瑠璃王は、釈迦族への復讐を企て、進軍を開始しました。釈尊は枯れ木の下に座り、毘瑠璃王の問いかけに「親族の陰は涼しいものである」と三度繰り返し答えた後、ついに釈迦族の都・カピラ城を攻撃しました。「仏の顔も三度まで」ということわざは、この出来事に由来すると言われています。マハーナーマンは釈迦族の女性を救おうとしましたが、自らの命を絶ちました。結果、釈迦族は壊滅的な打撃を受け、ほとんどが滅ぼされたと言われています。

さらに、毘瑠璃王は兄のジェータ太子をも殺害したと伝えられています。しかし、釈尊の予言通り、戦勝の宴の最中、落雷に遭い、あるいは川遊び中に増水した川に流され、命を落としました。その最期もまた、悲劇的なものでした。

余話

毘瑠璃王と釈迦族の悲劇は、武者小路実篤の戯曲『わしも知らない』にも描かれており、歴史的、文学的な観点からも注目に値する物語です。毘瑠璃王の生涯は、権力の奔流、血縁の複雑さ、そして避けられない宿命が織りなす、壮絶なドラマと言えるでしょう。

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