コーサラ国

コーサラ国：古代インドの栄華と衰退

コーサラ国は、古代インドにおいてアワド地方（現在のインド、ウッタル・プラデーシュ州）を主な領域とした王国です。後期ヴェーダ時代、数々の小国が台頭する中で、コーサラ国もその一つとして勃興しました。近隣のヴィデーハ国と交流を持ちながら、徐々に勢力を拡大していったとされています。

紀元前6世紀から5世紀にかけては、十六大国の一つとして、文化・政治両面において大きな影響力を持つまでに成長しました。アヨーディヤー、サケット、シュラーヴァスティーといった主要都市が栄え、セータヴィヤ、ウカッタなど多くの都市が繁栄しました。首都は、時代によって異なり、イクシュヴァーク王の時代はアヨーディヤー、十六大国時代はシュラーヴァスティーとされています。マウリヤ朝滅亡後には再びアヨーディヤーが中心地となりました。

コーサラ国の歴史は、様々な文献に記されています。『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』といった叙事詩、『プラーナ文献』といったヒンドゥー教の聖典、そして仏教経典やジャイナ教の教典などから、その歴史を多角的に考察することができます。

初期の歴史とイクシュヴァーク王朝

初期のヴェーダ文献にはコーサラ国の記述は見当たりませんが、『シャタパタ・ブラーフマナ』や『カルパ・スートラ』といった後期ヴェーダ文献には、地域名としてコーサラが登場します。『ラーマーヤナ』や『プラーナ文献』によれば、コーサラ国の王家はイクシュヴァーク王にまで遡るとされています。ラーマ神も、アヨーディヤーからコーサラ国を治めたとされています。イクシュヴァーク王朝以降、コーサラ国は様々な王によって統治され、その系譜は『プラーナ文献』に記されています。

仏教・ジャイナ教との関わり

仏教においては、ゴータマ・ブッダがコーサラ出身であるとされており、釈迦族を属国としていたと考えられています。ジャイナ教では、最後のティールタンカラであるマハーヴィーラがコーサラで布教活動を行ったとされています。これらの宗教とコーサラ国の関係は深く、宗教文化の発展に大きな影響を与えたと考えられます。

マハーコーサラ王とプラセーナジット王

マハーコーサラ王の時代には、隣国のカーシー国を征服し、コーサラ国の版図を拡大しました。その後を継いだプラセーナジット王は、ゴータマ・ブッダを信仰していたことで知られています。しかし、プラセーナジット王が不在の隙に、大臣が息子のヴィドゥーダバを王位につけ、その後まもなく、コーサラ国はマガダ国に併合されてしまいます。

マウリヤ朝時代とその後のコーサラ

マウリヤ朝時代、コーサラはコーサンビー総督の支配下に置かれていたと考えられています。シュラーヴァスティーでは飢饉が発生し、マウリヤ朝の官僚が対応にあたったことが、ソガウラの銅板銘文からわかります。マウリヤ朝滅亡後も、コーサラ国の支配者はアヨーディヤーを中心に勢力を維持し、独自の貨幣を発行していました。ムラデーヴァ、ヴァユデーヴァ、ヴィシャカデーヴァなど、多くの王の名が貨幣から確認されています。これらの王たちの活動は、アヨーディヤーで発見された方形の銅貨から知ることができます。

コーサラ国の遺産

コーサラ国は、マガダ国に併合された後も、その文化的な影響力は大きく、特に仏教やジャイナ教の発展に貢献しました。アヨーディヤー、シュラーヴァスティーといった都市は、聖地として現在も人々の信仰を集めています。コーサラ国の歴史は、古代インドの歴史を理解する上で重要な要素であり、その栄光と衰退は、時代の変遷を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

参考文献

Bhandare, S. (2006), Numismatic Overview of the Maurya-Gupta Interlude in P. Olivelle, ed., Between the Empires: Society in India 200 BCE to 400 CE, New York: Oxford University Press, ISBN 0-19-568935-6.
Falk, H. (2006), The Tidal Waves of Indian History in P. Olivelle, ed., Between the Empires: Society in India 200 BCE to 400 CE, New York: Oxford University Press, ISBN 0-19-568935-6.
Lahiri, B. (1974), Indigenous States of Northern India (Circa 300 B.C. to 200 A.D.), Calcutta: University of Calcutta.
Law, B. C. (1973), Tribes in Ancient India, Poona: Bhandarkar Oriental Research Institute
Pargiter, F.E. (1972), Ancient Indian Historical Tradition, Delhi: Motilal Banarsidass.
Raychaudhuri, H.C. (1972), Political History of Ancient India, Calcutta: University of Calcutta.
Thapar, R. (2001), Aśoka and the Decline of the Mauryas, New Delhi: Oxford University Press, ISBN 0-19-564445-X
Sastri, K. A. Nilakanta, ed. (1988) [1967], Age of the Nandas and Mauryas (Second ed.), Delhi: Motilal Banarsidass, ISBN 81-208-0465-1
Mahajan, V.D. (1960), Ancient India, New Delhi: S. Chand, ISBN 81-219-0887-6
Law, B.C. (1926), Ancient Indian Tribes, Lahore: Motilal Banarsidass
Oldenburg, Hermann (1882). Buddha: His Life, His Doctrine and His Order. Williams and Norgate.

もう一度検索