毛遠新

激動の時代を生きた毛沢東の甥

毛遠新（もう えんしん、1941年2月14日生）は、中国革命の指導者である毛沢東の弟、毛沢民と朱旦華の子として、新疆の地で生を受けました。彼の生涯は、伯父である毛沢東との特別な関係に大きく影響され、特に文化大革命という混乱期において、その権力を背景に重要な役割を担いました。彼は、文革期に権勢を振るった「八人組」の一人に数えられ、一時は「東北の太上皇」とも呼ばれるほどの絶大な影響力を行使しました。

複雑な生い立ちと伯父の庇護

毛遠新が幼い頃、父毛沢民は敵対勢力によって処刑され、母と共に監禁されるという過酷な経験をしました。解放後、延安を経て毛沢東と初めて対面した彼は、その後、毛沢東のそばで成長することになります。母が再婚した後も、彼は北京での教育を望み、毛沢東の承認を得て中南海で暮らすことになりました。毛沢東は彼を「お豆ちゃん」と呼び、深く可愛がったと伝えられています。

教育においては、北京市育英学校、北京101中学を卒業後、当時のエリート校であるハルビン軍事工程学院へ推薦されます。しかし、自身の力で入学したわけではないという毛沢東の指摘を受け、清華大学へ挑戦し合格。その後、毛沢東の勧めもありハルビン軍事工程学院に転入し、繰り上げ卒業を経て軍隊に入隊しました。当初は空軍司令員の参謀に任命されますが、毛沢東の方針により一兵卒として経験を積むため高射炮部隊に配属されるなど、その進路は常に伯父の意向に左右されていました。

文化大革命期の権力者へ

1966年に文化大革命が勃発すると、毛遠新は母校に戻り、紅色造反兵団を組織するなど、急進的な造反派の中心人物として活動を開始しました。特に、延辺朝鮮族自治州では学生運動を煽動し、地方政府の打倒を訴えるなど、全国的な影響力を持つようになります。彼の毛沢東との談話が公刊されたことも、その権威付けに繋がりました。

1968年以降、彼は遼寧省革命委員会副主任、瀋陽軍区政治部副主任・政治委員、遼寧省党委書記など、遼寧省における要職を次々と歴任し、同省の実権を掌握しました。この期間、彼は江青ら四人組に近い立場をとり、独善的な振る舞いが目立ちました。特に、彼が推進したとされる「階級隊列純潔化運動」では、多数の人々が謂われのない罪を着せられ、遼寧省だけで1万人近い死傷者が出たと記録されています。また、有名な張志新冤罪事件においては、思想犯とされた張志新の処刑を決定する際に主導的な役割を果たし、処刑前に気管を切断するという残酷な指示を出した人物の一人として、その名が挙げられています。

文革末期、病状が悪化した毛沢東の指示伝達役として党中央に入り、毛沢東弁公室主任を務めました。彼は毛沢東と党最高首脳との連絡役となり、政治局会議に代理出席するなど、その発言力は非常に大きくなりました。この立場を利用して、彼はしばしば当時の実力者であった鄧小平を批判し、毛沢東の意思決定に影響を与えたと言われています。江青、張春橋、王洪文、姚文元らと共に、毛沢東没後も権力を維持しようとした「八人組」の一員と見なされました。

失脚、服役、そして現在

1976年10月、毛沢東の死後、四人組が逮捕されると、毛遠新も同時に失脚し、翌年に逮捕されました。1986年に行われた裁判で、彼は懲役17年の判決を受けます。病気治療のため1989年に保釈され、1993年10月に刑期を終えました。

出所後、彼は「李実」という名前を使用し、上海汽車工業質量検測研究所で技術者として働きました。退職後は年金生活を送っています。かつての権力者の面影はありませんが、父毛沢民が革命の烈士であるため、「烈属」（殉死者の遺族）として特別な待遇を受けているとされています。近年では、毛沢東や毛沢民の生誕・逝去を記念する行事に親族として出席する姿が見られ、2023年12月の毛沢東生誕130周年記念行事にも参加しています。波乱に満ちた生涯を送った彼は、文化大革命という中国現代史の暗部を象徴する人物の一人と言えるでしょう。

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