王洪文

王洪文

王洪文（おう こうぶん、1935年12月 - 1992年8月3日）は、中華人民共和国の政治家です。文化大革命期の混乱の中で急速に台頭し、「四人組」と呼ばれる有力者の一員として、また中国共産党中央委員会副主席を務めた人物として知られています。

若き日々から文革での台頭

1935年に生まれた王洪文は、青年期に中国人民解放軍に入隊しました。1950年代前半の朝鮮戦争にも従軍した経験があります。軍務を終えた後、1956年には上海に移り、上海第十七綿紡織工場で保安担当者として働き始めました。

彼の人生が大きく転換したのは、1966年に始まった文化大革命でした。各地で紅衛兵や労働者による造反運動が巻き起こる中、王洪文は自身が勤務する工場で組織された労働者革命造反司令部の指導者となり、上海における造反派勢力の中心人物として頭角を現します。彼は、1967年に上海で樹立された上海人民公社（後に上海市革命委員会に改組）の設立において重要な役割を果たし、その功績が認められて上海市革命委員会の副主任に選ばれました。

「ヘリコプター昇格」と最高幹部への道

上海での活動を通じて、王洪文はその政治的手腕と行動力を中央に認められるようになります。特に毛沢東からの強い信任を得るようになり、彼の政治的な昇進は加速します。1969年には中国共産党中央委員に選ばれ、活動拠点を北京の中央へと移しました。翌1970年には労働者代表団を率いてアルバニアを訪問するなど、対外的にも活動するようになります。

そして、1973年8月に開催された中国共産党第10期中央委員会第1回全体会議（10全大会）において、彼は党副主席および党政治局常務委員という共産党の最高指導部のポストに抜擢されました。この時、彼はまだ38歳であり、四人組の中では最年少でした。しかし、党内序列は彼が最も高い位置に置かれていました。一介の工場労働者からわずか数年で党の最高幹部へと駆け上がったその異例の速さから、当時の人々からは「ヘリコプター昇格」と形容されることもありました。

毛沢東の庇護を受けて急速に地位を高めた王洪文でしたが、その政治基盤は必ずしも盤石ではありませんでした。例えば、1974年には復活しつつあった実力者である鄧小平の副首相就任に強く反対する意見を毛沢東に二度進言しましたが、かえって毛沢東の不興を買い、自己批判を強いられるという経験もしています。これは、彼が必ずしも毛沢東の絶対的な信頼を得ていたわけではないことを示唆しています。

失脚と晩年

王洪文の権力は、彼を庇護していた毛沢東の死によって終わりを告げます。1976年9月に毛沢東が死去すると、文化大革命の終結を目指す動きが急速に進展します。同年10月6日、王洪文は他の四人組のメンバーである江青、張春橋、姚文元と共に逮捕されました。これは、当時の権力闘争の中で、文化大革命を推進してきた勢力を排除するための事実上の「宮廷クーデター」でした。

逮捕後、王洪文は党内の地位を全て剥奪されました。1977年7月には、中国共産党第10期中央委員会第3回全体会議において、共産党員としての資格も公式に剥奪されます。そして、1980年から1981年にかけて最高人民法院特別法廷で開かれた、いわゆる「林彪・四人組裁判」において、彼は反革命罪などの罪に問われ、終身刑の判決を受けました。

その後、王洪文は服役生活を送り、1992年8月3日、肝臓の病気により獄中で死去しました。享年56歳でした。彼の生涯は、文化大革命という特殊な時代が生み出した政治家の栄光と、その後の劇的な失脚、そして悲劇的な末路として記憶されています。

関連項目

文化大革命
四人組
江青
張春橋
* 姚文元

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