木版

木版：印刷技術と文化遺産

木版とは、文字や絵を反転させて板に刻み、印刷に用いる版木のことです。木版印刷や木版画制作に欠かせない存在であり、その歴史は古く、東洋において特に発展しました。

用材と製法

木版の材料には、桜、梨、リンゴ、菩提樹など様々な木材が用いられてきました。日本では、梓や山桜などの柾目材が好まれ、細かい部分には黄楊の木口を象眼することがありました。版木は、歪みや亀裂を防ぐため、塩水に浸したり樹脂を抜いた後、陰干しされます。その後、両端に把手を取り付け、側面に書名や巻数などを刻んで管理しやすくします。版心と呼ばれる、中央部分で二つ折り可能な構造を持つ版木もあり、中国や朝鮮では、版心に刻師の氏名や住所、総字数などを刻み、彫り賃などの証明として使用していました。現代では、これらの情報から木版の制作年代や場所を特定する研究が行われています。

木版印刷の技術

木版への彫刻には、文字や絵以外の部分を彫り取る陽刻、文字や絵の部分を彫り取る陰刻、印刷物を版下に用いて精密に刻む覆刻などの技法が用いられました。特に精密な彫刻が必要とされる書籍では、徹底的な校正が行われ、誤字脱字を防ぐことが重要でした。一度誤りを犯すと修正が困難であるため、細心の注意が払われていました。墨を塗った木版に湿らせた紙を乗せ、刷り子などで擦り写し取ることで印刷が行われます。片面ずつ刷る片面摺が基本ですが、巻物用の長版技術を応用し、複数ページを同時に刷ることも行われました。完成した印刷物を、糊付け・糸綴じして製本したものを「整版」と呼びます。

木版と文化

活版印刷は隋唐期の中国に起源を持ち、朝鮮半島や日本へと伝播しました。特に高麗では10～13世紀に木版印刷による経典の印刷が盛んになり、11世紀に国家事業として刊行された高麗版大蔵経は有名です。モンゴルの侵攻で一度焼失しましたが、13世紀に再刊され、現在も海印寺大蔵経板殿に保存されています。高麗の木版印刷技術は日本にも伝わり、日本の仏教文化などに大きな影響を与えました。宋元時代以降の中国における学術・文芸の発展や、江戸時代の日本の浮世絵の隆盛も、木版印刷なくしてはありえませんでした。

木版の流通と著作権

木版は両面に彫刻できるため、表面を削って再利用することも可能でした。保存状態が良ければ100年以上使用できたと考えられますが、実際には虫食いなどによって再利用できないこともありました。印刷物が普及した後は、木版自体が商品として転売され、利益を生み出す手段にもなりました。同一内容の印刷物を大量に短時間で制作・頒布できる木版は、大きな経済効果をもたらしましたが、製造コストも高いため、複数人で資金を出し合って制作し、利益を分配する事例もありました。木版には費用と利益の両面から資産的価値があったため、前近代の東洋では、著作者よりも版元の方が著作物に関する権利や利益を享受することが多く、著作権概念の発達を阻害する一因となりました。それでも、木版印刷は人類の学問、文学、芸術の発展に多大なる貢献を果たしました。

参考文献

藤本幸夫「木版」『歴史学事典 14 ものとわざ』 弘文堂、2006年
川瀬一馬『古活字版之研究』など多数の文献（本文に記載）

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