水品浩

水品浩：日本IBMの礎を築いた実業家

水品浩（みずしな こう、1895年10月1日 - 1978年4月7日）は、日本の実業家であり、技術者でした。彼は、アメリカのテクノロジー企業であるIBMの日本法人、日本アイ・ビー・エムの事実上の創立者として広く知られています。

生い立ちと初期のキャリア

1895年、水品は神奈川県横須賀市に生まれました。父親は海軍の役人で、幼少期には京都の舞鶴鎮守府へ転勤しています。海軍士官や外交官を目指した時期もありましたが、近視のために断念。大学進学を諦め、1915年に森村組横浜出張所へ就職しました。その後、森村商事の輸入部門で働きながら、夜学で英語を学びました。

1920年、水品はニューヨークの現地法人、森村ブラザースに転勤し、雑貨類の販売業務に従事しました。この間も夜間の商業学校でビジネス英語と経営実務を学びました。

IBMとの出会い

1923年、水品は、森村財閥傘下の日本陶器（現ノリタケ）の生産管理合理化のため、ニューヨークで事務機械の見本市を視察することになりました。そこで、彼はCTR社（後のIBM）とパワーズ社（後のレミントンランド）のパンチカードシステムに出会います。

水品は、両社のシステムを比較研究し、信用調査を行った結果、IBMの機械を推奨しました。しかし、IBMはレンタル方式での顧客サービスにこだわっていたため、日本での代理店がないことを理由に取引を断られてしまいます。そこで、水品は自ら技術を習得し、保守を手がけることを決意。IBMと交渉し、エンディコットの工場で保守技術員の教育を受けることになりました。

1925年、水品の提案により、森村ブラザースとIBMは代理店契約を締結。同年9月、最初のパンチカードシステムが日本陶器に納入されました。このシステムを「統計会計機」と名付けたのも水品のアイデアでした。

代理店業務と苦難

その後、IBMのパンチカードシステムは、高価であるためレンタル事業はなかなか軌道に乗りませんでした。競合のレミントンランドは三井物産が代理店となり、輸入販売で官公庁に扱われやすかったことも、IBMが苦戦した原因の一つでした。また、森村組は日本製品の輸出を重視していたため、IBM製品を扱うことに反対する意見もありました。

1927年、森村商事は本業に専念するため、代理店業務を黒澤商店に引き継ぎました。水品も黒澤商店に移籍し、IBM製品の販売と保守に従事しました。黒澤商店は小規模な会社であったため、水品は苦労を重ねました。

1934年、アメリカの生命保険業界でIBM 405 統計会計機の人気が高まったことがきっかけとなり、日本でも日本生命と帝国生命（現朝日生命保険）が同機種を採用。IBMの事業は拡大に向かいました。

日本IBMの設立と戦時下の苦難

1937年、IBMは資本金50万円を事実上全額出資し、日本法人として日本ワットソン統計会計機械株式会社を設立しました。水品は営業部長に就任し、IBM本社から派遣されたチャールズ・M・デッカーが機械部門を担当しました。

1941年12月、太平洋戦争が開戦すると、水品は軍事機密情報をアメリカに流しているスパイという疑いで逮捕され、留置されました。翌年、日本ワットソン統計会計機械は敵産管理法によって財産と営業権を凍結され、国策会社である日本統計機株式会社が事業を引き継ぎました。水品はその後釈放されましたが、浪人生活を余儀なくされました。戦中には、第二海軍航空省でアメリカ海軍から接収したIBM 405 の復元を担当しました。

戦後の復興と日本IBMの成長

1946年、GHQから「連合国財産の返還等に関する政令」が出されると、日本統計機の社員であった稲垣早苗（後の日本IBM社長）がIBM本社に事業の再建を提案しました。1949年、日本ワットソン統計会計機械の財産と営業権が返還されると、水品は常務取締役として復帰しました。

1950年、社名は日本インターナショナル・ビジネス・マシーンズ株式会社に変更され、1953年には副社長に就任。1956年には社長に就任しました。水品の「呼びやすくて便利だから」という理由で、1959年には社名が現在の日本アイ・ビー・エム株式会社に変更されました。

水品は、1960年に会長に就任し、1961年に退職しました。その後、藍綬褒章や勲四等瑞宝章を受章し、1978年に82歳で生涯を終えました。

水品浩の遺産

水品浩は、日本におけるIBMの礎を築いた人物として、その功績は高く評価されています。彼は、自ら技術を学び、保守を手がけることで、IBMのパンチカードシステムを日本に導入し、その後の日本の情報処理産業の発展に大きく貢献しました。彼の情熱と努力は、日本IBMの歴史において、重要な役割を果たしています。

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