水浴のスザンナ (ティントレット、ルーヴル美術館)

作品概要

『水浴のスザンナ』（すいよくのスザンナ、仏: Suzanne au bain、英: Susanna in the Bath）は、ヴェネツィア派の巨匠ティントレットが1555年に制作した油彩画です。旧約聖書「ダニエル書」に記されたスザンナの水浴の物語を主題とし、ティントレットが同主題で描いた複数作品のうちの一つとして知られています。この作品は、かつてイングランド王チャールズ1世のコレクションにありましたが、後にフランス王ルイ14世の手に渡り、現在ではパリのルーヴル美術館に所蔵されています。

物語と絵画の解釈

物語は、ある暑い日にヨアキムの妻スザンナが自宅の泉で水浴をしていたところ、2人の老人に覗き見される場面から始まります。欲望を抱いた老人は彼女を凌辱しようとしますが、スザンナは拒否します。その後、老人は裁判官の立場を利用し、スザンナを不倫の罪で陥れようとしますが、預言者ダニエルによって彼女の無実が証明され、逆に老人は死刑を宣告されます。

15世紀以降、スザンナの水浴の物語は、タブーであった裸婦像を描くための宗教的な口実として、アルプス山脈の南北両側で広く人気を博しました。ティントレットはこの作品で、ミケランジェロの影響を受けたマニエリスム的な人物表現を用いていますが、スザンナは純潔の象徴というよりは、むしろ官能的で挑発的な女性として描かれています。薄暗い森から浮かび上がる彼女の裸体は光り輝き、ゆったりとした衣服を身に着けた侍女たちが髪や足の手入れをする傍らで、鑑賞者を見つめ返しています。しかし、彼女は背後から迫る老人の脅威には気づいていません。

ティントレットは、画面右奥へと伸びる対角線上の小径や、光と色彩の巧みな扱いによって、物語の不穏な展開を暗示しています。これにより、鑑賞者はスザンナに迫る危機を予感し、絵画のドラマチックな展開に引き込まれるのです。

作品の特徴

• - マニエリスム: ミケランジェロの影響を受けた人物表現と、捻りのあるポーズが特徴的です。
• - 官能的な描写: スザンナを純潔の象徴としてではなく、官能的な女性として描いています。
• - 光と色彩の巧みな扱い: 薄暗い背景と、光を浴びるスザンナのコントラストが印象的です。
• - 物語の暗示: 画面構成や小道具によって、物語の不穏な展開を示唆しています。

文化的背景

スザンナの水浴の物語は、宗教的な題材でありながら、裸婦像を描くための口実として広く用いられました。この作品は、ティントレットが当時の美術界における裸婦像の表現に挑戦し、新たな解釈を加えたものとして評価されています。

参考文献

ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年刊行、ISBN 978-4-7993-1048-9
中山公男・佐々木英也責任編集『NHKルーブル美術館IV ルネサンスの波動』、日本放送出版協会、1985年刊行　ISBN 4-14-008424-3
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行　ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

ルーヴル美術館公式サイト、ティントレット『水浴のスザンナ』 (フランス語)

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