水酸化セシウム

水酸化セシウム：最強クラスの強塩基

水酸化セシウム (CsOH) は、セシウムの水酸化物で、水溶液中では最強クラスの強塩基として知られています。無水物と一水和物の形態が存在しますが、一般的に市販されているのは純度約95%の一水和物です。この一水和物は、CsOH含有率は約85%です。水との親和性が非常に高いため、一水和物から水を完全に除去することは困難です。水酸化カリウムと同等かそれ以上の強塩基性を示すにもかかわらず、日本では劇物としては指定されていません。

合成方法

水酸化セシウムは、金属セシウムと水を反応させることで合成できます。しかし、この反応は非常に危険で、たとえ少量のセシウムであっても爆発的に進行します。氷であっても-116℃以上の温度では反応が起きるため、注意が必要です。この反応は以下のように表されます。

2Cs + 2H₂O → 2CsOH + H₂

より安全な合成方法としては、硫酸セシウム水溶液に水酸化バリウム水溶液を添加する方法があります。この方法では、硫酸バリウムの沈殿が生じ、これを除去することで水酸化セシウム水溶液を得ることができます。この反応は複分解反応であり、以下の式で表されます。

Cs₂SO₄ + Ba(OH)₂ → 2CsOH + BaSO₄↓

物性

水酸化セシウムは無色の固体で、非常に潮解性が高いです。セシウムイオンと水酸化物イオンからなるイオン結晶構造を持ちます。アルカリ金属の水酸化物の中で、水に対する溶解度、水和熱、溶解熱は最大であり、これはその強い塩基性に関連しています。水との反応は以下の平衡で表されます。

CsOH(s) + H₂O(l) ⇌ CsOH・H₂O(s), ΔH° = -50.98 kJ mol⁻¹

また、水への溶解は以下の式で表され、その溶解熱は非常に大きいです。

CsOH(s) ⇌ Cs⁺(aq) + OH⁻(aq), ΔH° = -71.04 kJ mol⁻¹

メタノールやエタノールなどのプロトン性溶媒にも容易に溶解します。水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの他のアルカリ金属の水酸化物と類似した性質を示しますが、濃厚溶液や融解状態では、より強い塩基性を示します。これは、セシウムイオンのイオン半径が大きく、水酸化物イオンとの静電的相互作用が小さいため、塩基性がより顕著に発揮されるためです。

気相中では、他のアルカリ金属の水酸化物と同様に主に二量体(CsOH)₂を形成します。気相におけるプロトン親和力は、LiOHからCsOHにかけて増大し、その差は水などの極性溶媒中よりも大きくなります。

固体および水溶液は二酸化炭素を吸収し、炭酸セシウムを生成します。炭酸セシウムも水に溶けやすいため、二酸化炭素の吸収力は非常に強く、ガラスを徐々に腐食するなど、一般的な強塩基に見られる性質を顕著に示します。この反応は以下のようになります。

2CsOH + CO₂ → Cs₂CO₃ + H₂O

用途

水酸化セシウムは、その強い塩基性を活かした用途が期待されますが、水酸化カリウムなどと性質が類似しているため、多くの場合水酸化カリウムで代用できます。また、セシウム化合物は高価なため、研究用途や特殊な用途に限られています。工業的には、ポリウレタンの原料であるポリオールの合成触媒として使用されることがあります。さらに、単結晶シリコンのエッチング液としても使用され、特に[111]面を露出させるような異方性の高いエッチングに有効です。この異方性エッチングは、水酸化カリウムなどよりも顕著に現れます。

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