氷上侵攻

氷上侵攻とは

氷上侵攻は、17世紀の北方戦争におけるスウェーデンとデンマーク間の戦闘で、スウェーデン軍が凍結した海峡を渡ってデンマークを奇襲した作戦を指します。特に有名なのは1658年に行われたカール10世による侵攻で、「ベルト海峡越えの進軍」とも呼ばれています。この成功により、スウェーデンはデンマークを屈服させ、ロスキレ条約が締結されました。また、1716年にも同様の作戦が試みられましたが、こちらは「嵐に消えた氷上侵攻」と呼ばれています。

1658年の氷上侵攻

17世紀の北方戦争の一部である「カール・グスタフ戦争」中、スウェーデン王カール10世はポーランドからの撤退を余儀なくされ、その隙を突いてデンマーク王フレデリク3世がスウェーデンに宣戦布告しました。これに対し、カール10世は迅速にユトランド半島を制圧しましたが、デンマークの首都コペンハーゲンがあるシェラン島への進軍は海峡のために困難でした。

しかし、1657年から1658年にかけての厳冬により、大ベルト海峡と小ベルト海峡が凍結しました。カール10世はこの好機を逃さず、1658年1月30日に小ベルト海峡を越えてフェン島に到達、2月8日には大ベルト海峡を渡りシェラン島に上陸しました。この奇襲は成功を収め、スウェーデン軍はコペンハーゲンを包囲。戦意を喪失したデンマークはロスキレ条約を締結し、スウェーデンが北方戦争の実質的な覇者となりました。この作戦は、現代においてもスウェーデン国民の誇りとなっています。

1716年の氷上侵攻計画

18世紀の大北方戦争中にも、スウェーデン王カール12世によって同様の氷上侵攻が計画されました。当時、スウェーデンはバルト海の覇権を握り、「バルト帝国」とも呼ばれていましたが、ポルタヴァの戦いでロシア帝国に大敗を喫し、その威信を失っていました。ロシアに対抗するためには、反スウェーデン同盟に参加しているデンマークを屈服させることが重要であると考えられていました。

カール12世は当初ノルウェー方面への侵攻を考えていましたが、1715年から1716年にかけての寒波によりエーレスンド海峡が凍結し、氷上侵攻が可能となりました。デンマーク側も58年前の悪夢の再来を覚悟して防衛体制を敷きましたが、スウェーデン軍が侵攻命令を下す直前、嵐によって氷が破壊され、作戦は中止となりました。これにより、カール12世はデンマーク本土への牽制を諦め、ノルウェー本土への侵攻へと目標を変更しました。

まとめ

氷上侵攻は、自然の力を利用した奇襲作戦であり、スウェーデンの歴史において重要な出来事でした。1658年の作戦は、スウェーデンがバルト海地域での覇権を確立する上で大きく貢献し、その後の歴史にも影響を与えました。一方、1716年の作戦は、自然の猛威によって中止となり、歴史の教訓として語り継がれています。

参考資料

武田龍夫『物語 北欧の歴史 - モデル国家の生成』中央公論新社、1993年。
武田龍夫『物語 スウェーデン史 - バルト大国を彩った国王、女王たち』新評論、2003年。

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