永井隆 (医学博士)

永井隆の生涯

生い立ちと学生時代

永井隆は、1908年2月3日に島根県松江市で生まれました。医師の父を持ち、幼少期は自然豊かな環境で育ちました。小学校では優秀な成績を収めましたが、中学では運動が苦手で、いつも徒競走ではビリに近い順位だったそうです。

松江高等学校に進学すると、ドイツ語教師との出会いをきっかけに、哲学や文学にも興味を持つようになりました。最初は唯物論者でしたが、後にカトリックの教えに触れ、その信仰に深く傾倒していきます。

長崎医科大学時代

1928年、長崎医科大学（現・長崎大学医学部）に入学。当初はスポーツが苦手だった永井ですが、大学ではバスケットボール部に所属し、全国大会で活躍するほどの選手となりました。しかし、大学時代に母を亡くしたことをきっかけに、霊魂の存在を信じるようになり、キリスト教への関心を深めました。

カトリック信者である森山家の娘、緑と出会い、結婚。1934年に洗礼を受け、パウロという洗礼名を与えられました。

また、大学卒業を間近に控えた時、中耳炎を患い、右耳が不自由になりました。そのため、内科医への道を諦め、放射線医学の道に進むことになりました。

軍医として

1933年、満州事変に従軍。軍医として兵士たちの治療にあたりました。この経験を通じて、永井は人間の命の尊さを改めて認識し、帰国後も献身的な医療活動を続けました。

日中戦争にも従軍し、72回もの戦闘に参加。戦場では、敵味方関係なく、多くの人々の治療を行いました。帰国後、大学で教鞭をとりながら、研究にも励みました。

被爆と救護活動

1945年8月9日、長崎に原爆が投下されました。永井は爆心地から700メートルの距離で被爆し、重傷を負いましたが、自らの治療よりも被爆者の救護を優先しました。

3日後には自宅に戻り、妻の遺骨を埋葬。その後は、医療チームを組織し、被爆者の治療にあたりました。その活動は、命を削るような献身的なものでした。

被爆によって白血病を発症し、余命宣告を受けますが、それでもなお、被爆者のために、救護活動や執筆活動を続けました。

如己堂での生活と晩年

病床に伏せるようになってからは、浦上に「如己堂」という庵を建てて生活しました。そこでは、多くの人々が永井を訪ね、励まされました。

永井は、原爆で荒廃した浦上に桜の苗木を寄贈し、人々に希望を与えようとしました。その桜は「永井千本桜」と呼ばれ、今もなお、人々に親しまれています。

永井は、病魔と闘いながらも、著作活動を通じて、平和と愛の大切さを訴えました。1951年5月1日、43歳という若さでその生涯を閉じました。

原子力への考え

永井は原爆投下を「神の御摂理」と捉え、原子力の平和利用に期待を寄せていました。しかし、それは無条件の肯定ではなく、原子力を人類の発展に役立てることを強く願っていました。

原爆の被害に遭った自らの経験を踏まえ、原子力の持つ可能性と危険性の両面を見つめていました。

遺産

永井隆の遺した言葉や著作は、今もなお多くの人々に勇気と希望を与えています。

「長崎の鐘」や「この子を残して」といった著作は、映画化やドラマ化もされ、広く知られています。永井の生涯は、平和を願う人々の心に深く刻み込まれています。

永井隆の精神は、如己堂や永井隆記念館といった施設を通じて、後世に伝えられています。

受賞歴など

1940年：金鵄勲章、旭日章臣皇
1950年：長崎市名誉市民

家族

妻：森山 緑（マリア）

子供：
長男：誠一
長女：郁子
次女：茅乃
三女：笹乃

主な著作

『ロザリオの鎖』
『この子を残して』
『生命の河―原子病の話』
『長崎の鐘』
『いとし子よ』
『原子野録音』

関連施設

如己堂
永井隆記念館
浦上天主堂
永井隆博士記念館
* 長崎市立山里小学校 あの子らの碑

永井隆は、激動の時代を生き、愛と平和を強く訴え続けた人物です。その生涯は、多くの人々に感動と希望を与え続けています。

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