永昌寺 (中津川市)

永昌寺について

永昌寺は、岐阜県中津川市馬籠に位置する臨済宗妙心寺派の寺院で、西澤山を山号とします。木曾西国三十三観音霊場の三十二番札所として知られています。この寺は、島崎藤村の小説『夜明け前』に「万福寺」として登場することで有名です。

歴史

永昌寺の歴史は、木曾氏に仕えた島崎監物重綱の嫡子、島崎重通（七郎左衛門）が馬籠に居館を構えた際に建立したと伝えられています。開創時期は正確には不明ですが、島崎氏の祖である島崎吉左衛門重通が開基し、木曽福島の長福寺七世の澤堂智仁を勧請開山したとされています。また、別の伝承では、島崎重綱が馬籠に移住した際に、島崎家の菩提寺として寛文5年（1665年）に創建されたとも言われています。

『木曾考続貂』には、中興の祖として澤堂智仁が寛文5年（1665年）に尽力したと記されており、この年に長福寺七世の澤堂智仁が中興したとされています。

島崎家は元々武家であり、天正12年（1584年）には島崎重通が木曽義昌の命で馬籠城の城主となりました。その後、木曽氏が下総に移封されると、島崎家は馬籠に土着し、江戸時代には馬籠宿の本陣、庄屋、問屋を歴任しました。

境内

永昌寺の境内は、静寂に包まれ、訪れる人々に心の安らぎを与えます。島崎藤村の童話『力餅』にも描かれた参道は、杉の枯れ葉が敷き詰められた湿った土を踏みしめることで心が洗われるような感覚になります。参道の途中には寛政年間（1789～1801年）の銘がある石仏があり、石段を登りきると山門が見えます。山門と鐘楼は平成になってから総檜造りで再建されており、山門は切妻屋根、桟瓦葺の一間一戸、四脚門となっています。また、山門に続く庫裡は落ち着いた佇まいを見せています。鐘楼の橦木には、元のままシュロの木が使われており、宮口しづえの童話『ゲンと不動明王』に登場する鐘楼のモデルにもなっています。

本堂は寛政5年（1793年）に再建されたもので、寄棟造の木造平屋建てで、入母屋造、桟瓦葺、平入、桁行7間という構造です。玄関の前には大きなギンモクセイの木が一本立っており、周囲にはモウソウチクの竹藪やツバキの木が生い茂っています。本堂の横には観音堂があり、円空仏や平安時代中期から末期にかけて作られたと推定される阿弥陀如来像が安置されています。

また、境内には『夜明け前』や『東方の門』の松雲和尚のモデルとなった十世の桃林智仙が住んだとされる隠居所や、九世の桑山が造り、桃林智仙が手を加えた庭園があります。庭園の池には太鼓橋が架かり、スイレンやコウホネが咲き、周囲にはサツキ、ウメモドキ、ツバキ、アヤメなどが自然のままに配置されています。観音堂の近くには、島崎藤村の三十三回忌を記念して建てられた「母を葬るのうた」の詩碑があり、そのすぐ下には藤村一家の墓地があります。

島崎藤村の遺髪と遺爪の一部が納められた藤村の墓碑や、妻と4人の子供の墓碑、小説『夜明け前』に登場する「青山半蔵」のモデルとされる藤村の父、島崎正樹の墓碑などがあります。本陣墓地には、開基である島崎重通の墓碑も存在します。

近年増築されたものとしては、宿坊の万福庵があり、座禅体験や精進料理の提供も行っています。

島崎正樹について

島崎正樹は、明治8年（1875年）に飛騨一宮水無神社の宮司となり、権中講儀を兼ねていましたが、明治11年（1878年）には明治天皇の北陸地方巡幸に際し、憂国の建白を試みて叱責され、挫折を繰り返した末に精神を病んでしまいました。明治13年（1880年）に馬籠へ帰郷しましたが、その後、島崎家の菩提寺である永昌寺を放火するという事件を起こしました。明治19年（1886年）11月29日に島崎家家中の座敷牢の中で死去しました。

中津川市指定有形文化財

永昌寺には、中津川市指定の有形文化財がいくつかあります。

1. 木造阿弥陀如来座像: 本堂脇の観音堂に安置されている桧材の一木造の仏像で、像高は58cmです。手の部分の損傷が激しく、印相も不明ですが、優れた作品とされています。寺伝では薬師像とされていますが、専門家の調査により平安時代末期（12世紀末）の作と推定される阿弥陀如来像であることが判明しました。
2. 木造聖観音立像: 観音堂に安置されている江戸時代前期に円空上人が彫ったとされる一木造の仏像で、像高は53cmです。
3. 紙本墨書大般若経: 鎌倉時代初期の建保3年（1215年）に製作されたものを、室町時代初期に写経したもので、全600巻の内、第410巻と第450巻の2巻が現存します。この経典には「美濃州 遠山庄 馬籠村 法明寺常住」と記されており、鎌倉時代初期には馬籠村が存在し、法明寺が所蔵していたことが分かります。
4. 青面金剛庚申塔: 境内に建つ高さ68cm、幅35cmの庚申塔です。

札所

永昌寺は、所蔵する千手千眼観世音菩薩によって、木曽西国三十三ヶ所観音霊場の三十二番札所となっています。

参考文献

『木曽路と島崎藤村 (歴史と文学の旅)』　永昌寺にて　p73〜p90　瀬沼茂樹　平凡社　1972年
『寺と神社 (信州の文化シリーズ)』　永昌寺　p192〜p194　 信濃毎日新聞社　1981年
『木曾路 : 木曾谷の歴史と文化 (観光資源調査報告 ; vol.5-6)』　(6)山口村 馬籠永昌寺 阿弥陀如来像　p26　観光資源保護財団　1977年
『日本文学の旅 第8 (東海文学散歩 第3 山道編)』　野田宇太郎　人物往来社　1968年
* 『探訪・信州の古寺 第Ⅲ巻　禅宗』 中信編　永昌寺　p216～p217　郷土出版社　1996年

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