江南機器製造総局

江南機器製造総局：清朝近代化の礎

江南機器製造総局は、1865年に清朝末期の洋務運動の中で設立された、中国初の近代的な軍事工場です。この工場は、当時の中国において最先端の技術を導入し、軍事力の強化と重工業の発展を目指しました。その設立から閉鎖、そして再建に至るまでの歴史を振り返り、その業績と影響を詳しく解説します。

設立と変遷

1865年9月20日、上海に江南機器製造総局が誕生しました。設立を主導したのは曽国藩であり、その後、李鴻章がその事業を引き継ぎました。アメリカ系の「旗記鉄廠」を買収し、既存の蘇州洋炮局と安慶内軍械所を統合することで、機械製造工場とドックを手に入れたのが始まりです。

1905年、造船部門が「江南ドック」として独立し、辛亥革命後には「江南造船所」と改称されました。一方、製造総局本体は1917年に「上海兵工廠」と改名されましたが、1937年に操業を停止。その後、日本軍の占領を経て、その跡地と機械は江南造船所に編入されました。1953年には「江南造船廠」と改名され、1979年には三菱重工業の古賀繁一の指導の下、再建されました。現在は「江南造船有限責任公司」として、中国船舶工業集団公司に属しています。

管理と運営

江南機器製造局は、洋務運動期に設立された兵器工場の中でも最大規模を誇り、予算も最大でした。設立当初は淮軍の軍費を主な財源とし、1867年からは上海税関の関税の一部が経費に充てられるようになり、1869年にはその比率が20％に引き上げられました。これにより、年間40万両以上の経費が確保されたと言われています。

工場のトップである督弁には、曽国藩、左宗棠、張之洞ら洋務運動の主要人物が就任し、晩清期には李鴻章が長きにわたりその任を務めました。また、行政主管には馮焌光、沈保靖らが、技術面ではアメリカ人の霍斯（T．F．Falls）らが初期に携わりました。工場では、大量の中国人が雇用され、機械操作を学びながら専門技能を習得し、その給料は一般的な肉体労働者の4〜8倍にも達しました。これらの労働者は、近代中国の最初の技術労働者となったのです。

軍事面の成果

江南機器製造局は、同治年間には東アジア最大の兵器工場として、清朝の軍事力と重工業生産力の向上に貢献しました。1867年には、毎日平均15丁のモーゼル銃と各種弾薬を生産する能力を持ち、捻軍の反乱鎮圧に一定の役割を果たしました。また、1868年には国産初の蒸気船「恵吉号」を建造し、1891年には中国で初めて鋼鉄の精錬に成功しました。

しかし、全体として、江南製造局の軍事物資の品質は必ずしも高くはありませんでした。例えば、歩兵銃の性能は低く、生産コストも外国からの輸入よりも高かったとされています。造船についても同様で、建造速度が遅く、生産コストが高いうえに燃費も悪かったため、外国船を購入した方が安価だったという状況でした。これらの生産コスト高騰の原因としては、原材料の輸入依存、人件費の高さ、調達物資の過剰、人員過多などが指摘されています。ただし、これらの点については異論も存在します。

文化的な影響

江南機器製造局には、機械製造の他に広方言館、翻訳館、工芸学堂が併設され、西洋の知識や技術の導入、人材育成にも尽力しました。特に、翻訳館では1868年から1907年までの約40年間で160種類もの翻訳書が出版され、軍事科学だけでなく、地理、経済、政治、歴史など多岐にわたる分野の西洋知識が紹介されました。これらの活動は、晩清の知識人が西洋の知識を吸収する上で、非常に大きな影響を与えました。


江南機器製造局は、清朝末期の混乱期において、中国の近代化を牽引した重要な存在でした。その設立から終焉まで、様々な課題や変遷を経てきましたが、その功績と影響は計り知れないものがあります。この工場の歴史は、中国近代化の黎明期を理解する上で不可欠な要素であると言えるでしょう。

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