江守五夫

江守 五夫

（えもり いつお、1929年1月15日 - 2016年10月18日）

日本の法社会学および民族学の分野で顕著な功績を残した研究者。千葉大学名誉教授。法と社会の関係性を探求する法社会学と、人々の生活様式や文化を研究する民族学という二つの視点から、日本社会の構造、特に村落や家族のあり方について深く考察しました。その研究は、婚姻の歴史や思想を分析することで、日本社会の基層文化に新たな光を当てました。

経歴

江守五夫は1929年、石川県金沢市に誕生しました。東京大学法学部で学び、1951年に同大学を卒業。その後、東京大学社会科学研究所の助手を務め、研究者としての道を歩み始めました。1958年には明治大学法学部助教授に就任し、後に教授へと昇任しました。さらに、千葉大学人文学部を経て、法経学部の教授として長年教鞭を執りました。この間、1983年から1987年にかけては、母校である東京大学の社会科学研究所にて併任教授も兼務し、後進の指導にも力を注ぎました。1993年に千葉大学を定年退官し、名誉教授の称号を得た後も、研究と教育に対する情熱は衰えず、帝京大学文学部教授、東京家政大学文学部教授を歴任しました。

学術的貢献と栄誉

江守五夫は、その幅広い研究活動の中で、異なる学問分野から二つの博士号を取得しています。1962年には「民族法学の方法論に関する一考察」により九州大学から法学博士号を授与され、続いて1977年には「日本村落社会の構造」の研究成果で東京教育大学から文学博士号を取得しました。これは、法と民族学、そして社会構造という多岐にわたる分野における彼の深い学識と貢献を示すものです。長年の学術研究と教育への貢献が認められ、2008年秋には瑞宝中綬章を受章しました。2016年10月18日、多臓器不全のため逝去しました。

主な研究テーマと業績

江守の研究は、特に家族と婚姻の制度および思想に焦点を当て、日本社会の歴史的変遷と構造を解き明かそうとしました。彼は、結婚という制度の起源や歴史、そしてそれを取り巻く思想がいかに社会構造に影響を与えてきたかを詳細に分析しました。『結婚の起源と歴史』、『母権と父権 婚姻にみる女性の地位』、『日本村落社会の構造』、『日本の婚姻 その歴史と民俗』など、多数の著書を通じて、村落社会における家族構造、婚姻形態の多様性、そして時代ごとの婚姻観の変遷を論じました。エンゲルスの著作を現代民族学の視点から再評価した『家族の起源』や、東アジアという広い視野から婚姻の民俗を比較研究した業績も特筆されます。また、国内外の研究者との共編著や、E.A.ウェスターマーク、マリノウスキーといった著名な研究者の著作の翻訳にも取り組み、日本の法社会学・民族学研究の発展に大きく貢献しました。

主要著作（一部）

『法社会学方法論序説』（1962年）
『結婚の起源と歴史』（1965年）
『日本村落社会の構造』（1976年）
『日本の婚姻 その歴史と民俗 日本基層文化の民族学的研究Ⅱ』（1986年）
* 『婚姻の民俗 東アジアの視点から』（1998年）

江守五夫の研究は、法社会学と民族学の境界を超えた学際的なアプローチによって、日本の村落、家族、婚姻といった基本的な社会制度の成り立ちと変容を深く理解するための重要な基盤を提供しました。彼の業績は、今なお多くの研究者によって参照されています。

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