民族学

民族学の概要

民族学（みんぞくがく、英: ethnology）は、世界各国の民族の文化や社会に関する研究を行う学問領域です。その理解は国や学派によりさまざまであり、特にヨーロッパ、アメリカ、日本においては異なる位置づけがされています。

民族学の位置づけ

欧州大陸における民族学

ヨーロッパ大陸、特にドイツ語圏では、民族学は文化科学として位置づけられ、自然科学の一部である人類学とは明確に区別されています。ここで「人類学」と言うと、自然人類学を指し、民族学とは対立する概念として理解されてきました。

アメリカ合衆国における民族学

アメリカでは、自然人類学と文化人類学がともに人類学の重要な分野を成しています。この体系において民族学は文化人類学の重要な部分を占めており、時には両者がほぼ同じ意味で使用されることもあります。

日本における民族学

日本の民族学は、ヨーロッパのシステムとアメリカの体系が複合的に取り入れられています。戦後、日本の大学における民族学の講座を設けた学者たちは、ドイツ語圏で訓練を受けたため、民族学は文化人類学的な側面を持つ学問として認識されてきました。しかし、近年の学界では「文化人類学」や「人類学」の名称が主流となっており、民族学の名は減少傾向にあります。

考古学・民俗学との関係

考古学は日本において歴史学に近接していると考えられていますが、アメリカでは人類学の一部として扱われています。民俗学は自国の基層文化を主に扱う学問ですが、民族学は他の民族や文化に関する広範なデータを基に研究しています。また、民俗学は日本の「国学」の流れを汲んでおり、自民族の文化を中心とした研究が進められています。

民族学における主なアプローチ

民族学が独自の学問として確立されたのは19世紀半ばで、その背景には大航海時代に蓄積された知識があります。この分野では、さまざまなアプローチが発展してきました。

進化主義

進化主義は、19世紀後半に盛んになったアプローチで、文化の進化を強調しています。この考え方は、社会における生存競争や優劣の観念を用いて、文化の進歩を説明しようとしました。これは帝国主義や人種差別の正当化にもつながる側面がありました。

歴史民族学（伝播主義）

20世紀前半に登場した歴史民族学は、文化の歴史的形成を重視しました。文化の伝播を通じて、文化要素の地理的分布を分析し、信頼できる文化史の再構成を目指しましたが、第二次世界大戦後には衰退しました。

機能主義

機能主義は、1920年代以降のイギリスで発展したアプローチで、社会の制度や機制がどのように社会全体の維持に寄与するかに注目しています。これには、イギリスの経験論哲学や功利主義思想が影響を与えています。

構造主義

構造主義は、1940年代以降のフランスの人類学で盛んになり、特にレヴィ＝ストロースの研究が有名です。彼は文化の要素を相互関係の中で理解しようとし、人類学の領域を広げました。

文化相対主義

現代において、民族学はエスノセントリズムから脱却し、すべての文化を平等に評価する文化相対主義の立場を取るようになりました。これにより、文化の多様性が尊重され、各文化の独自性と価値が認識されています。

結論

民族学は、様々な文化や社会の理解を深めるために多くのルーツとアプローチを持つ学問です。進化主義や歴史民族学、機能主義、構造主義といった多様な視点からの研究が進められてきたことが、現代における文化人類学の発展に寄与しています。

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