池上俊一

池上俊一：西洋中世史を多角的に探求する歴史学者

池上俊一氏は、1956年生まれの日本の歴史学者であり、東京大学名誉教授の称号を持ちます。専門は西洋中世史、特にトスカーナ地方の歴史ですが、その研究対象は魔女、食文化、都市史など多岐にわたります。池上氏の著作は、歴史を単なる過去の出来事として捉えるのではなく、社会構造や人々の文化、精神生活を深く掘り下げ、多角的な視点から歴史を解釈しようとする姿勢が特徴です。

学歴と職歴

愛知県で生まれた池上氏は、1979年に東京大学文学部西洋史学科を卒業後、1981年に同大学院修士課程を修了しました。1986年から1988年にかけては、フランス国立社会科学高等研究院に留学し、西洋中世史の研究に磨きをかけました。1994年には東京大学教養学部の助教授に就任し、その後教授として教鞭を執りました。専門は、地域文化研究専攻地中海・イスラム地域文化大講座地中海文化干渉論専攻です。2015年には『公共善の彼方に』でフォスコ・マライーニ賞を受賞し、同年に同著で東京大学文学博士号を取得しました。2021年に東京大学を退任し、名誉教授となりました。

研究テーマと著作

池上氏の著作は、単著、共著、共編著、訳書を含め、その数は非常に多く、西洋中世史研究における第一人者の一人として知られています。単著としては、『動物裁判』、『魔女と聖女』、『狼男伝説』など、中世ヨーロッパの異端や社会の周縁にいた人々に焦点を当てた作品が多数あります。また、『身体の中世』、『遊びの中世史』など、当時の人々の生活や文化を、身体や遊びという観点から捉え直す試みも行っています。

池上氏の著作の特徴として、歴史的な事象を多角的に捉え、その背景にある社会構造や文化、人々の精神生活を深く掘り下げて考察する点が挙げられます。『ロマネスク世界論』、『万能人とメディチ家の世紀』、『イタリア・ルネサンス再考』といった著作では、特定の地域や時代における文化や社会の変容を、詳細な歴史的分析を通じて明らかにしています。

近年では、『パスタでたどるイタリア史』、『お菓子でたどるフランス史』、『森と山と川でたどるドイツ史』など、食文化や地理的要素に着目した著作も発表しています。これらの著作は、歴史をより身近に感じられるようにするだけでなく、文化や歴史と私たちの日常生活とのつながりを改めて認識させてくれます。

主な著作リスト

池上氏の著作は非常に多岐にわたりますが、以下に代表的なものをいくつか紹介します。

『動物裁判――西欧中世・正義のコスモス』（講談社現代新書 1990年）
『魔女と聖女――ヨーロッパ中・近世の女たち』（講談社現代新書 1992年／ちくま学芸文庫（改訂版） 2015年）
『中世幻想世界への招待』（河出文庫 2012年）
『身体の中世』（ちくま学芸文庫 2001年）
『遊びの中世史』（ちくま学芸文庫 2003年）
『イタリア・ルネサンス再考――花の都とアルベルティ』（講談社学術文庫 2007年）
『シエナ―夢見るゴシック都市』（中公新書 2001年）
『ヨーロッパ中世の宗教運動』（名古屋大学出版会 2007年）
『ヨーロッパの中世（8） 儀礼と象徴の中世』（岩波書店 2008年）
『パスタでたどるイタリア史』（岩波ジュニア新書 2011年）
『図説 騎士の世界』（河出書房新社 2012年、新版2023年）
『お菓子でたどるフランス史』（岩波ジュニア新書 2013年）
『公共善の彼方に　後期中世シエナの社会』（名古屋大学出版会 2014年）
『森と山と川でたどるドイツ史』（岩波ジュニア新書 2015年）
『王様でたどるイギリス史』（岩波ジュニア新書 2017年）
『フィレンツェ―比類なき文化都市の歴史』（岩波新書 2018年）
『ヨーロッパ中世の想像界』（名古屋大学出版会 2020年）
『歴史学の作法』（東京大学出版会 2022年12月）
* 『少女は、なぜフランスを救えたのか　ジャンヌ・ダルクのオルレアン解放』（シリーズ<世界史のリテラシー>NHK出版 2023年）


池上氏の研究は、西洋中世史の理解を深める上で不可欠なものであり、その著作は専門家だけでなく、一般の読者にとっても歴史を身近に感じられるようにしてくれるでしょう。

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