池田三四郎

池田三四郎（1909年 - 1999年）は、昭和から平成にかけて活躍した日本の著名な木工家です。長野県松本市に生まれた彼は、民藝運動の思想を木工の世界で具現化し、特に「松本民芸家具」の礎を築いた人物として知られています。

生い立ちと初期の学び

1909年（明治42年）5月30日、池田三四郎は長野県松本市に生を受けました。地元の旧制松本中学校（現在の長野県松本深志高等学校）で学んだ後、1932年には東京高等工芸学校（現在の千葉大学工学部）の写真科を卒業します。この写真という視覚的なメディアでの学びが、後の彼の造形感覚や物を見る目に影響を与えた可能性も考えられます。

建築写真業から木工の世界へ

卒業後、池田は東京で「三六工房」という建築写真業を立ち上げ、活動を開始します。建築物の構造や細部を写真に収める仕事を通じて、空間や素材に対する理解を深めたことでしょう。しかし、彼のキャリアは次第に木工へとシフトしていきます。1944年には、後の松本民芸家具となる中央構材工業会社の設立に参画し、木材を扱う事業に関わるようになります。

民藝運動との出会いと「用の美」の追求

池田三四郎の人生にとって大きな転機となったのは、1948年に民藝運動の創始者である柳宗悦に師事したことです。柳宗悦が提唱した「用の美」、すなわち日常の中で使われる道具や家具の中に宿る素朴で健康的な美しさという思想に深く共感し、彼はこの理念を木工の世界で実践することを決意します。民藝運動への参加は、単なる技術者であった彼を、思想を持った作り手へと変貌させました。

松本民芸家具の確立とその特徴

柳宗悦の思想を胸に、池田は故郷である松本で独自の家具作りを進めます。彼は、飛騨山脈に自生するミズメ桜や欅といった堅牢で美しい木材を主な素材として選びました。そして、古くから松本の指物師たちの間で受け継がれてきた高度な木工技術を基盤としつつ、そこにヨーロッパや李朝（朝鮮王朝時代）の家具の構造やデザイン要素を取り入れ、独自のスタイルを確立します。彼が生み出す家具は、見た目の美しさだけでなく、日常の酷使に耐えうる圧倒的な丈夫さが特徴でした。これは、次々と新しいものが消費され、古いものが捨てられていく「スクラップアンドビルド」といった当時の社会的な風潮に対する、作り手としての静かな抵抗の表明でもありました。

池田三四郎のこうした取り組みは、「松本民芸家具」という独自のブランドを確立する上で決定的な役割を果たしました。彼の家具は、単なる調度品ではなく、「用の美」を備えた生活の道具として、多くの人々に愛されています。

著作活動

池田三四郎は、家具製作の傍ら、民藝や工芸に関する多くの著作を残しています。彼の思想や美意識は、これらの著作を通して広く伝えられました。

『松本民芸家具』
『信州の石仏』
『山麓雑記』
『木の民芸』
『民芸の家具』
『石の民芸』
『金の民芸』
『三四郎の椅子』
『李朝木工』
『原点民芸』
『民芸美論』
『松本民芸家具への道』
* 『民芸遍歴』

これらの著作は、民藝運動や日本の伝統工芸、そして彼自身の哲学を知る上で貴重な資料となっています。

晩年と遺産

池田三四郎は1999年（平成11年）12月15日に90歳でその生涯を閉じました。彼の残した堅牢で美しい家具の数々は、現在も多くの家庭で使われ続けており、「松本民芸家具」は日本の民芸家具の代表的な存在としてその名を知られています。彼の「用の美」を追求する姿勢と、伝統技術に新たな息吹を吹き込む創造性は、後世の木工家や工芸家たちに大きな影響を与えています。

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