池田末利

池田 末利（いけだ すえとし）

生涯

池田 末利は、1910年3月19日に福岡県で生まれた、日本を代表する中国哲学研究者です。大東文化学院で基礎を学び、1936年には広島文理科大学を卒業しました。学問への深い探求心から、卒業後まもない1938年から1941年にかけて中国に渡り、北京大学でさらなる研鑽を積みました。この中国での経験が、彼のその後の研究に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

帰国後、研究者としてのキャリアを歩み始め、特に中国古代の宗教に関する研究に没頭しました。その成果は、1955年に東京大学から文学博士の学位を授与された学位論文「中国ニ於ケル祖先崇拝ノ溯源的研究、並ニソノ天・地神崇拝トノ関係」として結実しました。この論文は、中国における祖先崇拝の起源を探り、それが天や地の神々への崇拝とどのように関連しているのかを詳細に論じたものであり、彼の研究における核心的なテーマの一つを示しています。

教育者としても長く活躍し、広島大学文学部で助教授、後に教授として多くの学生を指導しました。1973年には同大学を定年退官し、名誉教授の称号を得ました。その後、大東文化大学に移り、教授として教育・研究活動を続けるとともに、同学の学長も務め、大学運営にも深く関わりました。学長退任後も、中国学界の重鎮として尊敬を集め続けました。

学術団体での活動も活発に行い、日本の中国学界を牽引する存在として、1979年から1981年まで日本中国学会の理事長を務めました。これは、彼が日本の中国哲学・学術界において中心的な役割を担っていたことの証と言えるでしょう。池田末利は、2000年11月9日にその生涯を閉じましたが、その学問的功績と教育者としての貢献は、今なお高く評価されています。

研究と業績

池田末利氏の研究は、多岐にわたる中国哲学の中でも、特に中国古代の宗教、制度、思想史、そして古典の厳密な解釈に焦点を当てていました。彼の研究姿勢は、文献資料に基づいた実証的な分析を重んじるものであり、その成果は質の高い著作や訳注として結実しています。

主要な研究成果の一つは、学位論文にも見られるような、中国古代における宗教信仰、特に祖先崇拝や天・地神崇拝に関するものです。これらの信仰が古代中国社会の制度や思想とどのように深く結びついていたのかを丹念に解き明かしました。この分野の研究を集大成した著作が、1981年に東海大学出版会から刊行された『中国古代宗教史研究 制度と思想』です。この著書は、古代中国の宗教現象を単なる信仰の側面だけでなく、それが当時の社会制度や人々の思想形成にどのように影響を与えたのかという視点から包括的に論じており、この分野における重要な研究書として位置づけられています。

また、池田氏は中国古典の正確な読解と普及にも尽力しました。特に、中国の礼に関する重要な文献である『儀礼』の訳注全5巻（東海大学出版会「古典叢書」所収、1974年から1977年にかけて刊行）は、その詳細かつ丁寧な注釈により、研究者や学生にとって不可欠な文献となりました。さらに、中国最古の歴史書の一つとされる『尚書』についても、集英社「全釈漢文大系」シリーズの一巻として、精緻な訳注を手がけました（1976年刊行）。これらの訳注は、難解な中国古典を現代の読者が理解するための貴重な手助けとなるものです。

古典解釈だけでなく、日本の思想家である荻生徂徠の著作編集にも携わっており、『荻生徂徠全集 第13巻 統治論 2』の共同編集（みすず書房、1987年）は、その学術的視野の広さを示すものです。教育者としては、広島大学や大東文化大学で教鞭を執る傍ら、多くの後進を育成し、日本の中国哲学研究の発展に貢献しました。その学術的功績と教育者としての功績を記念して、『東洋学論集 池田末利博士古稀記念』（1980年）も刊行されています。彼の研究は、中国古代の信仰、制度、思想、そして古典に対する深い理解をもたらし、日本の中国学研究に確固たる足跡を残しました。

主要著作・訳注

著書

『殷虚書契後編釈文稿』 広島大学文学部中国哲学研究室 1964
『中国古代宗教史研究 制度と思想』 東海大学出版会 1981

訳注

『儀禮』訳註 全5巻 東海大学出版会「古典叢書」 1974-1977
『全釈漢文大系 11 尚書』 集英社 1976

その他（編集・編著など）

『荻生徂徠全集 第13巻 統治論 2』 川原秀城共編輯 みすず書房 1987
鉄井慶紀『中国神話の文化人類学的研究』 平河出版社 1990 （編著）

記念論集ほか

* 『東洋学論集 池田末利博士古稀記念』 同 事業会 1980

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