沢田豊

沢田 豊

沢田 豊（さわだ ゆたか、1886年1月10日 - 1957年9月3日）は、主にドイツをはじめとするヨーロッパ各地で活動した日本人サーカス芸人、曲芸師です。その波乱に満ちた生涯は、激動の20世紀の歴史と重なります。

生涯

愛知県の葉栗郡大野村（現在の愛知県一宮市浅井町大野）で、医師の家庭に三男として生まれました。しかし、1891年に発生した濃尾地震により被災し、生活の場を東京・浅草へ移し、祖父を頼って身を寄せます。浅草で目にした玉乗り曲芸を行う「横田一座」に心を奪われた沢田は、家を飛び出して一座の一員となりました。そして、16歳だった1902年（資料によっては14歳だった1900年とも）には、横田一座と共に海を渡り、当時のロシア領だったウラジオストクへ向かいます。一行はそこからさらに移動し、サンクトペテルブルクをはじめ、ロシア各地を巡る興行を行いました。

1904年、日露戦争が勃発した際、一座は黒海沿岸のヤルタに滞在していましたが、敵国の人間としてそのまま現地に留め置かれることになります。その後、横田一座はコンスタンティノープルを経由し、ギリシャ、エジプト、そしてイタリアへと旅を続け、以降はヨーロッパ各地を転々としながら公演を続けました。

ドイツでの成功と激動の時代

1907年になると、横田一座はドイツで勢いを増していた「サラザニ・サーカス」と契約を結びます。沢田は特に、青竹の上に頭だけで倒立するといった難易度の高い独自の大技で観客を魅了し、その妙技が評判を呼び、一座のスターへと駆け上がりました。プライベートでは、ドイツ人女性のアグネスと結婚し、やがてふたりの間には6人の子供を授かりました。

しかし、平穏な日々は長く続きませんでした。1914年に第一次世界大戦が勃発すると、横田一座は再び敵国の人間として一時身柄を拘束され、一座は解散を余儀なくされてしまいます。沢田はサーカスの道を一時離れ、しばらくの間スイスのチューリッヒで電気技師として生計を立てていました。

第一次世界大戦後、沢田は再びサラザニに招集され、子供たちと共に「サワダファミリー」として再び舞台に立ち、曲芸を披露するようになります。1934年からは、サラザニの南米ツアーに同行するなど国際的に活動を続けました。日本での公演計画も持ち上がったことがあったようですが、残念ながら実現には至りませんでした。主催者であるサラザニが急逝したことを受け、サーカスがドイツに帰国した後、沢田は1936年にサラザニの息子によって解雇されるという苦境に立たされます。

その後も沢田一家は、キャバレーのショーなど、別の形で芸を披露し続けましたが、第二次世界大戦でのドイツの敗戦後、新たな試練が訪れます。ベルリンを占領したソビエト連邦軍により、日本人であった沢田は、妻子と共に当時の満洲、新京へ強制的に送還されてしまったのです。

晩年と後世

政治的混乱が続く中国に約3年間滞在した後、沢田一家は1948年にようやくドイツへと帰還することが許されました。その後も彼らは曲芸の公演活動を継続し、1953年まで舞台に立ち続けました。

晩年は妻子とドイツのゲッティンゲンで暮らしていましたが、1957年9月3日、心臓衰弱のため息を引き取りました。71歳でした。

沢田豊の死後、彼の次男である日系ドイツ人のマンフレッド・ユタカ・サワダ（1919年生）は、1990年に日本の新聞記事を通してルーツを探し、翌1991年には横浜で開催された「野毛大道芸ふぇすてぃばる」に招かれて来日を果たしました。また、1993年にはサーカス研究家の大島幹雄氏によって、沢田の生涯を描いた評伝『海を渡ったサーカス芸人 コスモポリタン沢田豊の生涯』が出版され、その数奇な人生が改めて世に知られることとなりました。

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