沢風 (駆逐艦)

沢風：波乱に満ちた駆逐艦の一生

日本海軍の駆逐艦「沢風」は、峯風型駆逐艦の2番艦として知られています。艦名は「沢に吹く風」に由来しており、海上自衛隊の護衛艦「さわ風」にもその名を受け継がれています。興味深いことに、「沢風」は同型艦の「峯風」よりも早く起工、進水、竣工しており、そのため「沢風型駆逐艦」と呼ばれることもあります。一等駆逐艦として分類され、日本海軍が運用した同型艦の中では最古参でした。

艦名表記について

「沢風」の艦名表記には、旧字体である「澤風」と新字体である「沢風」が存在します。これは、艦名が決定された時期が新字体が一般的でない時代であったためです。文献によっては固有名詞として「澤風」の表記が用いられることもありますが、「沢風」も正しい表記とされています。これは、1942年の「標準漢字表」発表によって認められたためです。しかし、戦時下での発表だったこともあり、広く浸透したのは戦後になってからです。

波乱の艦歴

「沢風」は三菱造船長崎造船所で建造されました。1919年1月7日、佐世保鎮守府司令長官財部彪中将によって命名され進水しました。しかし、採用されたばかりのパーソンズ社製ギアードタービンのトラブルにより、予行運転中に重大な故障が発生。タービン動翼の脱落やタービン軸の曲がりなど、修復に時間を要する損傷を受けました。

1920年3月、ようやく竣工。同年12月には「峯風」、「矢風」、「沖風」と共に第2駆逐隊を編成、第2艦隊第2水雷戦隊に編入されました。その後も、「沢風」は数々の事故に見舞われます。1923年には同隊の「矢風」の機関故障による曳航、1924年には東京湾での「松風」との接触事故、そして1925年には択捉島での座礁事故が発生しました。さらに、1927年には曳船との接触事故により曳船を沈没させてしまうという事態も引き起こしています。1928年には漁船との衝突事故も発生しており、海難審判に発展しました。

これらの事故は、「沢風」の艦齢や当時の技術水準、そして運航環境の厳しさなどを反映していると言えるでしょう。

1930年11月には第1航空戦隊に編入され、「赤城」の直衛として活動。1932年の第一次上海事変にも参加し、長江水域での作戦に従事しました。

1935年からは館山海軍航空隊の練習艦となり、その後も練習駆逐艦や対潜実験艦、訓練目標艦など、様々な役割を担いました。しかし、駆逐艦籍を離れることはありませんでした。第二次世界大戦では、対潜掃討や船団護衛、そして「囮作戦」にも参加しています。

囮作戦と潜水艦撃沈の謎

1944年1月、特設砲艦「でりい丸」を囮とした敵潜水艦誘致作戦（乙作戦）に「沢風」は参加しました。この作戦で「でりい丸」はアメリカ潜水艦「ソードフィッシュ」の雷撃を受け沈没。しかし、「沢風」を中心とした攻撃により、別の潜水艦を撃沈したとされました。この戦果は、のちに誤認戦果であると判定されましたが、現場で確認された大量の油膜や気泡の正体は、いまだに謎となっています。

対潜実験艦への改造と終戦

1945年2月からは対潜実験艦への改造工事が行われました。主砲の撤去、対潜噴進砲の装備など、対潜戦に特化した改修が施されました。終戦時には横須賀にあり、無傷で終戦を迎えています。

防波堤としての第二の人生

終戦後、「沢風」は防波堤として転用されることになります。1948年、小名浜港で沈設され、28年間、防波堤として港湾を守りました。その後、1965年に解体されましたが、スクラップの一部は艦魂碑としていわき市三崎公園に現在も展示されています。

忘れられた模型

「沢風」を建造した三菱重工長崎造船所は、1/4インチスケールの「沢風」模型を所有していました。この模型は、様々な博覧会に出展され、大日本帝国海軍の広報活動に貢献しました。その後、タイ王国海軍省に譲渡されたと記録されていますが、その後の行方は不明です。

「沢風」の生涯は、数々の事故や作戦参加、そして防波堤への転用など、波乱に満ちたものでした。その歴史は、当時の日本海軍、そして戦争の激しさを私たちに伝えてくれます。

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