河口の稚児舞

河口の稚児舞は、山梨県南都留郡富士河口湖町河口に位置する河口浅間神社で継承されている、歴史ある民俗芸能です。この舞は、同神社の例大祭（4月25日）と太々御神楽祭（7月28日）の折に、神社の拝殿にて奉納されます。地元では「オダイダイ」とも呼ばれていますが、その起源は巫女舞による太々神楽にあると考えられています。

この貴重な民俗芸能は、昭和35年（1960年）11月7日に山梨県の無形民俗文化財として指定を受け、その後、平成29年（2017年）3月3日には国の重要無形民俗文化財に指定されました。河口地区だけでなく、富士河口湖町大石にも、大正時代に伝わったとされる稚児舞が残っています。

舞を奉納する稚児は「オイチイサン」と呼ばれ、7歳から12歳程度の少女たちが約10人選ばれます。彼女たちは、白の小袖に緋色の千早と指貫袴を身につけ、刺繍を施した陣羽織を重ね、緋色の襷をかけます。顔には化粧を施し、頭には瓔珞を被り、鈴などの採物を持って舞います。かつて、オイチイサンは神職や御師の子で両親が健在であることが条件でしたが、現在では両親健在の条件は守りつつも、広く氏子の子女から選ばれるようになっています。また、稚児に選ばれると、かつては厳しい禁忌が課せられていましたが、現在でも4月の例大祭での奉納時には、生ものを口にすることが禁じられ、毎朝、火打石で身を清めるなどのしきたりが守られています。

舞を盛り上げる囃子は「下方（したかた）」と呼ばれ、大太鼓、鞨鼓（「バチ」と呼ばれる）各1人、笛3人によって奏でられます。囃子手は成人男性が務めます。奉納の際、稚児たちは拝殿内の右側（向かって左側）に一列に座り、そこから摺り足で拝殿の中央に進み出て舞います。舞いは五番から構成されており、全ての舞で右手に鈴を持ちますが、左手の採物は各舞で異なります。

以下が、五番の舞の内容です。

御幣（ごへい）の舞：2人または3人舞。採物は御幣です。
扇の舞：2人または3人舞。採物は扇です。
剣（つるぎ）の舞：1人舞。採物は剣です。
八方の舞：2人舞。採物は御幣です。最も複雑な動きを見せ、八方向を清める舞です。
宮めぐりの舞：8人舞。採物は扇です。拝殿から本殿前にかけてを3回廻り、本殿前の浜床に並んで舞い納めます。

7月の太々御神楽祭では、五番全てが奉納されますが、4月の例祭では、御幣の舞、扇の舞、剣の舞の三番が奉納されます。近世には、富士登山が盛んに行われた時期には、登山前の道者からの依頼で奉納されることもあったといわれています。

河口の稚児舞は、歴史と伝統が息づく貴重な民俗芸能であり、地域の人々によって大切に守り継がれています。

参考文献

高山茂「祭りと芸能」『山梨県史民俗編』第二編第三章第四節
全日本郷土芸能協会編『日本の祭り文化事典』、東京書籍、平成18年ISBN 4-487-73333-2
高橋秀雄・志摩阿木夫編『祭礼行事・山梨県』、おうふう、平成7年ISBN 4-273-02488-8

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