河合道臣

河合道臣（かわい ひろおみ／みちおみ）

河合道臣は、江戸時代後期に活躍した姫路藩の家老であり、一般的には晩年に名乗った号「寸翁（すんのう）」として知られています。彼は酒井氏に50年以上仕え、藩の財政再建に大きく貢献した人物です。

生涯

道臣は姫路城内の侍屋敷に生まれ、幼い頃からその聡明さで名を馳せました。11歳の時には、藩主酒井忠以からの命により出仕を始めます。天明7年（1787年）には父の死去に伴い、1000石の家督を相続し、21歳で家老に任命されました。道臣はまた、茶道にも造詣が深く、文人としての側面も持ち合わせていました。

姫路藩は、江戸時代の多くの藩と同じく、大きな累積債務を抱えていました。姫路藩の歳入は73万両に達し、その4倍以上の債務があったため、日常生活にも困窮を極めていました。このような危機的状況の中で、道臣は忠以の信任を得て財政改革に取り組みました。しかし、寛政2年（1790年）に忠以が急死すると、道臣は失脚しますが、新たに藩主となった忠道に再び抜擢されることになります。

忠道のもとで、文化5年（1808年）から道臣は本格的な改革に着手します。彼は質素倹約令を導入しながら、領内各地に固寧倉（義倉）を設け、困窮する農民を救済しました。従来の農政では、農民に倹約を強いる代わりに、浮いた米を藩が搾取するというものでしたが、道臣は低利融資や無利息の米貸出といった画期的な政策を打ち出しました。これにより、領民は再起を果たし、藩内の社会安定に寄与しました。

彼はまた、朝鮮人参やサトウキビなどの高付加価値作物の栽培も推進し、藩の収入増加を図りました。姫路藩では従来から新田開発が行われていましたが、道臣の治世下では主に播磨灘沿岸で新田が開発され、年貢減免策も講じられました。さらに、海岸部の港湾整備に努め、商業を振興しました。

道臣の特筆すべき業績の一つは、特産品販売に関する改革です。姫路周辺の木綿は以前、大坂商人を通じて販売され、その際に価格が高騰していました。道臣は木綿の藩による専売化を推進し、大坂商人を介さずに江戸直販を目指しました。この試みは困難を伴いましたが、江戸での木綿専売に成功し、姫路木綿は「姫玉」や「玉川晒」として高い評価を得ました。

道臣はまた、塩や皮革、鉄製品などの専売にも成功し、藩は莫大な利益を得ました。この改革によって、27年をかけて藩の負債を完済することができました。

天保6年（1835年）に69歳で隠居し、天保12年に75歳で逝去しました。彼の墓所は仁寿山校近くの河合家にあります。1941年には特旨により従四位に叙され、1957年には姫路市の商工人によって寸翁神社が建立されました。

逸話

道臣は藩校「好古堂」の他に、仁寿山南麓に「仁寿山黌」を設立し、頼山陽や森田節斎などの学者を招いて教育に尽力しました。また、茶人としても名高く、藩の和菓子文化の発展にも寄与しました。「玉椿」と呼ばれる和菓子は、道臣の命名によるものです。彼の教育や商業振興への尽力は、姫路藩の発展に大きく寄与しました。

道臣は硯の収集家としても知られており、百面以上の逸品を所有していました。彼の改革とその精神は、姫路藩の歴史に鮮明な足跡を残しています。

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