酒井忠以

酒井忠以：文化と藩政に生きた姫路藩主

酒井忠以は、江戸時代中期から後期にかけて、播磨姫路藩の第2代藩主を務めた人物です。雅楽頭系酒井家の15代目にあたります。

生涯

忠以は、姫路藩世嗣・酒井忠仰の長男として江戸に生まれました。父が病弱であったため、祖父・忠恭の養嗣子となり、18歳で家督を継承します。

文化人としての才能

忠以は、絵画、茶道、能といった分野で非凡な才能を発揮しました。特に茶道においては、出雲松江藩主の松平治郷（不昧公）と親交を深め、石州流茶道を学びました。その腕前は皆伝を受けるほどで、将来は流派を担うとまで言われたほどです。また、大和郡山藩主の柳沢保光とも茶道を通じて交流しました。

絵画にも親しみ、宋紫石・紫山親子から南蘋派を学んでいます。彼の作品としては、『兎図』や『富士山図』などが現存しており、殿様芸の域を超えた高い評価を受けています。実弟には、江戸琳派の絵師として知られる酒井抱一がいます。

藩主としての苦悩

文化人として華やかな才能を発揮する一方で、藩主としては苦難の時代を過ごしました。天明3年（1783年）から天明7年（1787年）にかけて発生した天明の大飢饉により、領内は甚大な被害を受け、藩財政は逼迫しました。この状況を打開するため、忠以は河合道臣を家老に登用し、財政改革を試みます。しかし、寛政2年（1790年）に36歳の若さで急逝したため、改革は頓挫しました。

日記と茶懐石

忠以は筆まめな人物としても知られています。趣味や日々の出来事、天候などを詳細に記録した『玄武日記』『逾好日記』は、当時の生活を知る上で貴重な資料となっています。特に『逾好日記』に記録された茶懐石は、和食研究家の道場六三郎によって「逾好懐石」として再現されています。

年譜

1755年（宝暦5年）：誕生
1766年（明和3年）：忠以と改名
1772年（安永元年）：酒井家相続
1781年（天明元年）：光格天皇即位式に参賀
1785年（天明5年）：溜間詰
1790年（寛政2年）：死去

官歴

1768年（明和5年）：従四位下河内守
1772年（安永元年）：雅楽頭
* 1780年（安永9年）：侍従

逸話

逸話集『耳嚢』には、忠以が光格天皇の即位式に上洛する際、愛犬の狆が京都までついてきたという話が記述されています。天皇はこの犬の忠義心に感銘を受け、位を与えたとされています。ただし、忠以自身の日記にはこの件に関する記述はなく、『耳嚢』の著者も根拠のない話であると記しています。

酒井忠以は、文化人としての才能と藩主としての苦悩を抱えながら生きた人物でした。彼の残した日記や作品は、当時の文化や社会を知る上で貴重な資料となっています。

もう一度検索