河尻秀隆

河尻秀隆：織田家重臣、激動の生涯

河尻秀隆（かわじり ひでたか）は、戦国時代に織田信長に仕えた武将です。黒母衣衆の筆頭として勇名を馳せ、後に織田信忠の補佐役、さらには甲斐国主にまで昇りつめました。しかし、本能寺の変の混乱の中でその短い治世を終え、激動の生涯を閉じます。彼の出自から最期までを、史料を基に詳細に解説します。

生涯

織田信秀への出仕

尾張国岩崎村の出身とされる河尻秀隆ですが、詳しい出自は不明です。清洲織田氏の家臣に同姓の人物がおり、この関係から秀隆も清洲織田氏の家臣であった可能性が高いと見られています。

秀隆は早くから織田信秀に仕え、その偏諱（へんき）である「秀」の字を与えられています。16歳で初陣を飾り、今川軍の足軽大将を討ち取るなど、若くして武功を挙げました。その後、信長の家臣となり、古参の家臣として重用されるようになります。

黒母衣衆の筆頭として

信秀の死後も信長に仕え、黒母衣衆の筆頭として活躍します。信長の弟である信勝（信行）の殺害を実行するなど、信長からの信頼は厚かったと考えられます。桶狭間の戦いをはじめ、各地の戦いで先陣を切って戦い、その武勇を示しました。

永禄8年（1565年）には、丹羽長秀と共に美濃猿啄城を攻略。その功績により、城を「勝山城」と改名させ、周辺の領地を与えられました。また、堂洞城攻めでは一番乗りを果たすなど、数々の戦功を重ねています。

その後も、信長の上洛や伊勢北畠氏攻めなど、各地を転戦。姉川の戦いや比叡山焼き討ちなど、重要な戦いにも参加し、その都度、武功を上げています。

元亀3年（1572年）には、東美濃の岩村城を占拠。織田信長の四男を養子に迎え入れるなど、東美濃における織田氏の勢力拡大に貢献しました。しかし、武田氏の侵攻により岩村城を奪われ、その後の戦いで奪還するまで、東美濃の最前線で武田氏との戦いを繰り広げます。

信忠軍団の副将

天正2年（1574年）には、織田信忠付きの武将となり、その補佐役を務めます。武田氏の勢力が岐阜を脅かす中、神箆城の守備を任され、武田氏の侵攻を食い止めました。長篠の戦いでは信忠を補佐し、軍の指揮を執るなど、信忠軍団の事実上の中心人物として活躍しました。

長篠の戦いの後、岩村城を奪還し、その功績により5万石を与えられました。岩村城下には疎水を作り、町の基礎を築いたとされています。その後も、東濃に留まり、武田氏の抑えとして重責を担いました。

甲州征伐

天正10年（1582年）、甲州征伐に従軍。武田氏の侵攻を防ぐための国境守備から始まり、高遠城攻略など、数々の戦いでその手腕を発揮します。高遠城攻めでは、主力として戦い、わずか一日で陥落させるなど、その武略は信長にも高く評価されました。信忠軍の軍監として、部将たちの統制にも尽力しています。

甲州征伐後、甲斐国を与えられ、その領主となります。しかし、その統治期間はわずか2ヶ月ほどであり、本能寺の変によってその短い治世は終わりを迎えることになります。

甲斐統治と本能寺の変

甲斐国主となった秀隆は、甲府を居城として統治を開始します。農民の保護や寺社への安堵など、統治者としての一面を覗かせます。しかし、その統治は長くは続きませんでした。本能寺の変が発生すると、旧武田領では一揆が勃発し、混乱に陥ります。秀隆は領国に留まり、事態の収拾を図ろうとしますが、家康の策略により窮地に追い込まれます。

家康は、秀隆の知己であった本多忠政を派遣し、秀隆を説得しようとしますが、秀隆は家康の意図を見抜き、忠政を斬殺して家康と決別します。その後、武田遺臣に襲撃され、岩窪で討ち取られました。享年56。

人物

秀隆は、信長からの信頼が厚く、信忠の補佐役としても重用された人物です。武勇に優れ、数々の戦で先陣を切って戦いました。また、政治手腕にも優れ、領地経営にも尽力しました。

信長は秀隆を深く信頼しており、長島一向一揆攻めの最中に秀隆を心配する書状を送っています。また、安土城下に屋敷を与えたり、武田家臣への調略を指示したりするなど、秀隆を側近として重用していたことが伺えます。

甲州征伐では、信忠の軍監として、部将たちの軽率な行動を統制する役割も担っていました。これらのことから、秀隆が信忠軍団の実質的な核であったと考えられます。

ただし、甲斐国での圧政については、同時代の史料では確認できず、近世以降の地誌類の記述に基づいている可能性があります。

子孫

息子の秀長は、父の遺領を相続できませんでしたが、秀吉に仕え、各地を転戦し、知行を得ました。しかし、関ヶ原の戦いで西軍につき、敗戦、戦死または自害しています。弟の鎮行は、江戸幕府に召し出され、旗本として存続しました。

娘は、浅野左近に嫁ぎましたが、後に前田家に引き取られ、土肥親真に再嫁し、土肥家次を儲けています。

まとめ

河尻秀隆は、戦国時代に織田信長に仕えた武将です。黒母衣衆の筆頭として勇名を馳せ、織田信忠の補佐役、さらには甲斐国主にまで昇りつめましたが、本能寺の変の混乱の中でその短い治世を終えました。武勇、政治手腕に優れ、信長、信忠から厚い信頼を得ていました。彼の生涯は、まさに戦国時代の激動を象徴するものであったと言えるでしょう。

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