河津川

河津川は、伊豆半島東部に位置する静岡県賀茂郡河津町を貫流する河川であり、日本の二級水系において本流に位置づけられています。その流れは、町の自然環境、生態系、そして文化に深く結びついています。

河津川の源は、伊豆半島の脊梁をなす天城山の西陵にあります。標高1,125メートル地点にほど近い八丁池の南方山中から清冽な水が湧き出し、流れの始まりとなります。この源流部には、貴重な天然のブナ林が広がり、その豊かな自然環境は「天城山・水源の森」として水源の森百選にも選ばれています。興味深いことに、天城山の北斜面から流れ出る水は狩野川の源流となる一方、南斜面からの水が河津川を形成しており、同じ山系でありながら異なる水系を生み出しています。

源流から流れ出した河津川は、天城峠の西斜面から流れ来る荻ノ入川を出合滝で迎え入れ、さらに大鍋川や佐野川といった複数の支流を集めながら、河津平野を南東方向へと進みます。やがて河津谷津川と合流した後、相模灘へと注ぎ込みます。この河川は、総幹川流路延長が約16.4キロメートル、流域面積は80.8平方キロメートルに及びます。特筆すべきは、この河川の流域が全て河津町内に含まれている点です。

河津川は、その豊かな水質と自然環境により、多様な生態系を育んでいます。特に有名なのは、天然のアユが多く遡上することです。清流を遡るアユの姿は、河川の健康を示す指標とも言えます。また、秋から冬にかけては、地元の漁によってズガニ、すなわちモクズガニが捕獲されます。この季節の味覚として、多くの人々に親しまれています。

河津川は、自然の恵みだけでなく、文化的な側面でも特筆すべき存在です。早咲きの桜として全国的に知られる河津桜は、この河津川のほとりで発見されたことに由来します。河津町田中地区の河津川の河原、現在の豊泉橋付近で、河津桜の原木が発見されました。現在、河津川沿いには河口付近の谷津地区から、役場のある峰地区にかけて、見事な河津桜の並木が続いています。毎年早春になると、これらの桜が開花し、「河津桜まつり」が開催されます。この祭りには、多くの観光客が訪れ、川沿いを彩る鮮やかなピンク色の花々を楽しみ、春の訪れを感じさせる賑わいを見せます。

河津川は、天城山の森深くを源とし、清らかな流れで流域に恵みをもたらし、そして河津桜という文化的な象徴とも結びついています。その全長は比較的短いながらも、自然、生態系、そして人々の生活や文化と密接に関わる、河津町にとってかけがえのない存在と言えるでしょう。

もう一度検索