河童形土偶

河童形土偶：縄文時代の神秘

河童形土偶は、縄文時代中期（紀元前3000年～前2000年頃）に特徴的な土偶の一形式で、その名の通り、頭部の形状が河童を連想させることに由来します。主に北陸地方および中部山岳地方で発見されており、その独特な形状と分布範囲は、当時の人々の精神世界や文化交流を反映していると考えられています。

長者ヶ原遺跡出土の河童形土偶

本記事では、新潟県糸魚川市の長者ヶ原遺跡から出土した河童形土偶（東京国立博物館所蔵）を中心に解説します。長者ヶ原遺跡は、旧石器時代から縄文時代後期にかけての複合遺跡であり、特に縄文時代中期にはヒスイの玉作りが盛んに行われたことで知られています。1971年には国の史跡に指定されました。

発見の経緯

この土偶は、1916年頃に矢島喜久一氏によって偶然発見されました。土偶は、地表からわずか9センチ下の地中に、2つの石を重ねた上に、顔を上にして東向きに寝かされた状態で発見されたといいます。周囲には木炭が散布されており、何らかの儀式的な意味合いがあったことが推測されます。

発見時、土偶の下に置かれていた2つの石は砂岩でできており、砥石か台石として再利用されていたと考えられています。発見者の矢島氏はこれらの石を保管しており、後の長者ヶ原遺跡調査の際に、その状況が復元され、土偶と共に東京国立博物館に寄贈されました。

東京国立博物館での保存と修復

この土偶は、1938年に東京国立博物館に収蔵されました。その後、経年劣化による損傷が目立つようになったため、武蔵野文化財修復研究所によって修復作業が行われました。修復の過程は、2016年に東京国立博物館で特別展示され、多くの人々の関心を集めました。

形状の特徴

長者ヶ原遺跡出土の河童形土偶は、高さ30センチメートル、幅19.1センチメートル、厚さ8.7センチメートルと、国内でも最大級の大きさです。表面には赤色の顔料が付着しており、全体的に良好な保存状態を保っています。

顔面部と足の先端部に一部欠損が見られますが、これは過去の破損によるもので、石膏による補修が施されています。土偶は板状の胴体に手足を付けた構造で、足底が大きく安定しています。腕は水平に伸び、小さな乳房が表現されています。

最も特徴的なのは、頭頂部の皿状の形状です。舟形にへこんだ内部は無文で、その周縁部には刻みが施されています。文様は太い沈線文で描かれており、肩の部分には連続刺突文が加えられています。これらの文様は、同時期の馬高式土器との共通性が見られ、この土偶の地域的特色を示していると評価されています。

その他の出土例

河童形土偶は、長者ヶ原遺跡以外にも、長山遺跡（富山県富山市）、桂野遺跡（山梨県笛吹市）、筑摩佃遺跡（滋賀県米原市）などで出土しています。

長山遺跡からは、複数の河童形土偶がまとまって出土しており、板状の胴体部分に別々に作られた頭部・腰・脚部を接合させた構造が特徴です。これは、土偶が板状から立像へと変化していく過程を示す貴重な資料とされています。

桂野遺跡から出土した河童形土偶は、ほぼ完形の状態で発見され、地元の小学校で「みさかっぱ」と命名されました。

筑摩佃遺跡から出土した河童形土偶に伴う土器群には、北陸地方のものが多く見られることから、この遺跡は河童形土偶を祀る風習を持つ人々が築いた集落である可能性が指摘されています。

河童形土偶は、縄文時代の人々の精神文化や信仰を今に伝える貴重な遺産です。その独特な形状や文様は、当時の人々の美意識や世界観を反映しており、私たちに縄文時代の文化をより深く理解する手がかりを与えてくれます。

もう一度検索