河西三省

河西三省：情熱的な実況で国民を魅了したアナウンサー

河西三省（かさい さんせい、本名読み：かさい みつみ、1898年9月16日 - 1970年12月2日）は、昭和初期にラジオで活躍したアナウンサー、実業家です。特にスポーツ中継における情熱的かつ詳細な実況は、当時の聴衆を熱狂させました。後年はNHK浜松放送局長や日本放送出版協会社長などの要職を歴任し、日本の放送文化の発展に貢献しました。

生い立ちとジャーナリストとしての出発

東京府（現在の東京都）出身の河西は、慶應義塾大学を中退後、時事新報社に入社し、運動部記者としてキャリアをスタートさせました。全国中等学校野球大会（現在の全国高等学校野球選手権大会）では、日比谷公園に設置された試合速報掲示板「プレーヤーズ・ボールド」の解説員を務め、その分かりやすい解説が人気を博しました。この実績が評価され、1927年の第13回大会決勝戦中継では、東京側のスタジオ解説者に抜擢されました。

スポーツアナウンサーとしての転身と活躍

1929年、河西はスポーツアナウンサーとしてのキャリアを本格的にスタートさせるため、NHKに入局しました。彼の野球中継は、その詳細かつ的確な描写から「河西の放送を聴けば、そのままスコアブックをつけられる」とまで評されました。1932年のロサンゼルスオリンピックでは、松内則三、島浦精二とともに、日本初の海外スポーツ中継を実現させたアナウンサーの一人となりました。

1936年のベルリンオリンピックでは、山本照とともに放送を担当。特に、競泳女子200メートル平泳ぎ決勝での実況は、彼のキャリアにおいて最も有名なものとなりました。日本の前畑秀子選手とドイツのゲネンゲル選手が繰り広げた激戦を、河西は普段の冷静さを失い、以下のような熱狂的なアナウンスで伝えました。

「前畑! 前畑がんばれ! がんばれ! がんばれ! ゲネルゲンも出てきました。ゲネルゲンも出ております。がんばれ! がんばれ! がんばれ! がんばれ! がんばれ! がんばれ! 前畑、前畑リード! 、前畑リード! 前畑リードしております。前畑リード、前畑がんばれ! 前畑がんばれ! リード、リード、あと5メーター、あと5メーター、あと4メーター、3メーター、2メーター。あッ、前畑リード、勝った! 勝った! 勝った! 勝った! 勝った! 勝った! 前畑勝った! 勝った! 勝った! 勝った! 勝った! 勝った! 前畑勝った! 前畑勝った! 前畑勝った! 前畑勝ちました! 前畑勝ちました! 前畑勝ちました! 前畑の優勝です、前畑の優勝です」

この実況は、聴衆に大きな感動を与えた一方で、一部からは「客観性に欠ける」「第三位以下の選手の順位が不明」といった批判も受けました。しかし、河西自身は「放送席の近くにいた陸上の選手たちが『そーれ、ガンバレ』と応援していたので、私も一緒になってしまった」と述懐しています。この実況は、当時の国民のスポーツへの熱狂を象徴する出来事として、今も語り継がれています。

その後の活動と晩年

河西はその後、日本放送協会理事、日本放送出版協会社長を歴任しました。1968年には、長年の放送事業への貢献が認められ、勲四等瑞宝章を受章しました。1970年12月2日、心不全のため東京都中野区の自宅で逝去。享年72歳。同日、従五位を追贈されました。

関連作品

河西の活躍は、映画やレコード、そしてテレビドラマなど、様々な形で後世に伝えられています。

映画: 『青年日本を語る』（1934年、地上映画社）
レコード: 『第十一回国際オリムピック大会・ニュースレコード水上競技実況放送』（1936年、ポリドール・レコード）。このSPレコードは11万枚以上を売り上げる大ヒットとなりました。
* テレビドラマ: 大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』（2019年、NHK）では、トータス松本が河西三省を演じました。

河西三省は、その情熱的な実況と放送界への貢献により、日本のスポーツ史、放送史にその名を刻む人物として、今もなお多くの人々に記憶されています。

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