河野裕 (小説家)

河野裕：言葉の魔術師、多様な世界を描く作家

河野裕氏は、1984年生まれの小説家、ゲームデザイナーである。徳島県で生まれ、現在は兵庫県を拠点に活動している。

彼の経歴は小説家という枠組みを超えた多彩さで彩られている。大阪芸術大学卒業という学術的なバックグラウンドに加え、大学時代には落語研究会に所属し、会長を務めるなど、エンターテインメントの世界への強い関心を示していた。芸名は「浪遊亭我呂」で、後輩には人気漫才コンビ・ミルクボーイのメンバーがいたというエピソードも興味深い。

作家としてのキャリアは、グループSNEへの所属を経てスタートする。グループSNEは数多くのテーブルトークRPG（TRPG）を世に送り出した老舗企業であり、河野氏がゲーム制作にも関わるようになったのも自然な流れと言えるだろう。

2009年、角川スニーカー文庫より刊行された『サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY』で小説家デビューを果たす。同時期には、TRPG『ゲヘナ〜アナスタシス〜』のリプレイ作家としてもデビューし、多方面での才能を開花させた。

秋田禎信、乙一、村上春樹、西尾維新といった著名な作家たちから多大な影響を受けていることを公言しており、その影響は彼独自の文体や世界観に色濃く反映されていると見られる。

健康面では、2009年に夏バテによる多量のパピコ摂取が原因で糖尿病を患い、入院する経験もしている。

2015年には、『いなくなれ、群青』で第8回大学読書人大賞を受賞するなど、その作品は高い評価を受けている。さらに2024年には、『彗星を追うヴァンパイア』で第15回山田風太郎賞候補にノミネートされるなど、作家としての地位を確立している。

独自の創作手法

河野氏の創作プロセスは、独特の様相を呈している。イラストを先に描いてから文章を書く、書き進めていく中で初めて思考がまとまるという、一般的な作家とは異なる手法をとることがある。そのため、綿密なプロットを事前に作成してから執筆に取りかかることは少ない。しかし、『最良の嘘の最後のひと言』では、プロットを立てて執筆した経験を持つ。一方で、『密室の中のホールデン』ではプロットを捨てて書き進めようとしたものの、完全にプロットを捨てることの難しさを痛感したというエピソードも語っている。

また、彼は「会話をリアルに書こう」という意識は持たず、口語体で書こうとしても、結果として文語体に近い表現になるという特徴を持つ。これは、「言葉を記号化するものだ」という小説に対する独自の認識に基づいている。読みやすさを重視し、リアリティは二の次とする、大胆なアプローチが特徴的だ。誤読を減らすため、一般的な小説では使用しないような表現を用いることもある。ただし、『最良の嘘の最後のひと言』では、台詞を台詞として書き、記号的ではないキャラクター表現を試みている。

多彩な作品群

河野裕氏の作品は、角川スニーカー文庫、角川文庫、新潮文庫nex、創元推理文庫など、様々なレーベルから刊行されている。代表作である『サクラダリセット』シリーズは、全7巻の大作であり、映画やアニメにもなった人気シリーズである。他にも、『いなくなれ、群青』、『つれづれ、北野坂探偵舎』シリーズ、『さよならの言い方なんて知らない。』シリーズなど、多くの作品を発表している。これらの作品を通して、河野氏は独特の世界観と、言葉を操る卓越した技量を披露している。

さらに、TRPGのリプレイ執筆にも携わっており、『ゲヘナ〜アナスタシス〜』シリーズなどが知られている。小説、ゲーム、リプレイと、多様な媒体で表現活動を展開し、その活動の幅広さは特筆に値する。

まとめ

河野裕氏は、落語研究会の経験から培われた言葉への深い理解、そして独自の創作手法を武器に、小説、ゲーム、リプレイなど、様々な分野で活躍する稀有な存在である。彼の作品からは、言葉の魔術師としての才能、そして、読者に多様な世界観と感情を届ける強い意志が感じられる。今後の活躍にも目が離せない作家の一人である。

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