油すまし

油すまし：熊本に伝わる謎の妖怪

油すましは、熊本県に伝わる日本の妖怪の一種です。その起源は昭和初期に遡り、郷土史家の浜田隆一が著した『天草島民俗誌』に「油ずまし」として記録されています。しかし、伝承が少なく、謎に包まれた存在です。

概要

『天草島民俗誌』によると、天草郡栖本村（現・天草市）と下浦村（現・同）を結ぶ草隅越という峠道で、老婆が孫に「昔、油瓶を下げたものが出た」と話すと、「今も出るぞー」と油ずましが現れたとされています。その峠は、現在の草越峠であると判明していますが、具体的な伝承はほとんど残っていません。

民俗学者の柳田國男は、著書『妖怪談義』で『天草島民俗誌』を引用し、「（油すましという）名の怪物」と記述していますが、その外観や特徴については触れていません。

妖怪研究家の京極夏彦は、『妖怪談義』における油すましの記述が、物の怪が頭上から落ちてくる怪異譚と並べて紹介されている点に着目しました。そして、油すましは人の姿をした妖怪ではなく、釣瓶落としのように油瓶が頭上から下がる怪異ではないかという仮説を提唱しましたが、確証は得られていません。

類話

熊本県には、油すましのように、妖怪の噂話をするとその妖怪が現れるという怪異譚がいくつか存在します。

例えば、『天草島民俗誌』には、うそ峠で「血のついた人間の手が落ちてきた」という話をすると、同じように手が落ちてくる話や、「生首が落ちてきた」という話をすると、生首が落ちてくる話が記録されています。また、下益城郡豊野村では、「今にも坂」という場所で大入道が現れるという話をしながら坂を通ると、本当に大入道が現れたという話が伝えられています。

昭和以降の解釈

昭和以降の妖怪関連書籍では、油すましは蓑を羽織った姿で描かれることが多くなりました。これは、漫画『ゲゲゲの鬼太郎』や大映映画の妖怪シリーズに登場する油すましの影響によるものと考えられています。これらの作品における油すましのイメージは、その後の様々な媒体に影響を与え、定着していきました。

水木しげるによって描かれた油すましの妖怪画は、文楽人形の「蟹首」をモチーフにした創作であるという指摘もあります。また、書籍によっては、すまし顔であることが名前の由来とされていますが、『妖怪談義』では名前の由来は不明とされています。児童向けの書籍では、頭が良い、天才的と解説されていることもありますが、これは映画『妖怪大戦争』で油すましが参謀格として登場したことに由来すると考えられています。

史跡

2004年には、栖本町河内地区で「油すましどん」と呼ばれる石像の一部が発見されました。この石像は、首のない状態で両手を合わせている姿をしています。地元では、『天草島民俗誌』とは異なり「油すまし」と呼ばれており、「油をしぼる」ことを「油をすめる」と表現することから、油絞りの職人が祀られて神になったものが、時を経て妖怪に変じたという説もあります。

油すましは、その正体や伝承が曖昧なため、様々な解釈が生まれてきました。しかし、その謎めいた魅力は、多くの人々を惹きつけ、妖怪文化の一角を担っています。

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