油井

油井とは

油井（ゆせい）とは、油田において原油を採掘するために掘られる井戸のことです。地上または海上から、原油を含む地層である油層に向けてボーリングを行い、パイプを挿入します。このパイプを通して原油が地表まで汲み上げられます。

油井掘削の歴史

21世紀初頭現在、一般的な油井掘削に使用されているロータリー式掘削法は、もともと1841年または1845年にフランス人のフォーベルによって水井戸掘りとして発明され、同じくフランス人の土木技師レショットによって実用化されました。19世紀から20世紀にかけて、それまで主流だった衝撃式掘削方式はロータリー式に取って代わられました。1901年には、アメリカ人のキャプテン・ルーカスがテキサス州スピンドルトップで初めて油田の掘削にこの方式を使用し、大量の原油を得ることに成功しました。その後、ロータリー式掘削法はアメリカをはじめとする世界各国で広く採用されるようになりました。

油井のプロセス

油井の建設には、主に以下のプロセスがあります。

1. 探索

まず、最新の科学的知見とデータ分析、電気検層、人工衛星による地質写真、人工地震探査、地上の目視探査、海上からの音響探査などを用いて、油田の存在可能性が高い場所を特定します。これらの作業はすべて地質学者の手によって行われます。特に三次元地震探鉱技術は、人工地震探査や音響探査のデータをコンピュータで高速解析することで、地下の立体的な構造を把握することを可能にし、これまで見過ごされてきた油田の発見に貢献しています。さらに、油の汲み出し開始後も三次元地震探鉱を継続することで、地下における原油の移動状況を把握し、残存する原油の回収量を増やす四次元地震探鉱技術も活用されています。

2. 試掘

探索によって有望と判断された場所で、実際に試し掘りを行います。試掘によって油層が発見されれば、次の段階に進みますが、発見できなければ探索を続行します。試掘時には、「コア」と呼ばれる地中のサンプルを採取し、油層の有無や状態に関する情報を得ます。試掘井の近くにさらに井戸を掘る場合があり、これらは最初の試掘井と区別して探鉱井と呼ばれることがあります。

油層に当たると、内部の圧力によって原油や天然ガスが自噴することがあります。しかし、自噴は予期せぬ事故を引き起こす可能性もあるため、高圧の噴出物を受け入れる準備が整っていない状態での噴出は「暴噴（Blowout）」と呼ばれ、作業者は直ちに遮断スイッチを押して避難する必要があります。遮断スイッチは、地中深くに設置されたサーフェース・ケーシング（Surface casing）と呼ばれる装置の頭部に取り付けられたブローアウト・プリベンター（Blowout preventer, BOP, 防噴装置）を作動させ、BOPのバルブを閉鎖することで噴出を止めます。この段階で、採算が取れるだけの原油または原油とガスが採れる油田（ガス油田）と、天然ガスのみが採れるガス田に区別されます。

3. 生産井の掘削

試掘井とは別に、原油の汲み出し専用の生産井を複数掘ります。これは、試掘井が油層のない深さまで掘られている場合があるためです。生産井の建設と並行して、地上には集油、送油、貯油施設が建設されます。

4. 原油の汲み出し

一次回収

油層の圧力が高い状態では、原油は自ら噴出（自噴）しますが、圧力が低い場合にはポンプを用いて汲み上げます。これらの方法を一次回収（Primary recovery）と呼びます。油層の上部に天然ガスが溜まっている場合、原油の汲み上げによってガスキャップが膨張し、原油を押し出すため、一次回収で回収できる原油は総量の約40%になります。ガスキャップがない場合は、原油に溶け込んだ天然ガスが泡となって膨張するだけであり、一次回収で回収できる原油は総量の約20%程度です。

二次回収

一次回収で回収できるのは、油層に含まれる原油の一部に過ぎません。そのため、一次回収で生産ができなくなった油井では、原油を分離した後の水や天然ガスを油層に注入して残った原油を加圧して回収します。これを二次回収（Secondary recovery）といいます。水を注入する方法は「水攻法」（Water flooding）、ガスを注入する方法は「ガス圧入法」（Gas injection）と呼ばれ、総称して回復法（Improved Oil Recovery）と呼ばれることもあります。21世紀初頭現在では、回収量が増加すると見込まれる場合には、一次回収の初期段階から水やガスを注入することが一般的です。水攻法では、水が油層内に自然に存在する場合、一次回収分を含めて総量の約60%の原油が回収可能です。ガス圧入法は水攻法ほど効果的ではありませんが、圧入する天然ガスは原油の回収に伴って産出されるものであり、従来はガスフレアで焼却処分されていたほどです。しかし、現在では天然ガスはLPGとして有効に利用されるため、焼却処分はあまり行われず、油井現場に豊富に存在するガスを圧入に利用することが一般的です。

三次回収

二次回収でも回収しきれない原油を回収するために、三次回収（Enhanced Oil Recovery, EOR）または強制回収法と呼ばれる技術が開発・実用化されています。これは、水蒸気、炭酸ガス、界面活性剤（洗剤）などを注入して原油の流動性を改善する方法です。水蒸気を注入する「水蒸気攻法」（Steam floods）は、粘度の高い原油を温めてパラフィンとアスファルトを溶かし、水と共に流動化させます。二酸化炭素を圧入する「炭素ガス攻法」（Carbon dioxiside floods）は、気体または水に溶かした二酸化炭素を圧入し、石油に溶け込ませて膨張させることで回収を容易にします。界面活性剤（洗剤）を圧入する「洗剤攻法」（Detargent floods）は、油を細かな粒に包み込むことで岩石や砂との接着を外し、流動性を向上させます。その他、ブタンやプロパンといった液化ガスを注入して原油を洗い流す「ミシブル攻法」（Miscible floods）、空気を注入して油層内の石油を燃焼させる「火攻法」（Fire floods）などがあります。これらの方法により、原油の回収率を大幅に向上させることが可能です。

5. 閉鎖

原油とガスが汲み出された後は、穴は閉鎖され、装置はすべて撤去され、地上は更地にされます。

油井の掘削技術

ロータリー式掘削

地上での石油掘削の基本的な構成要素は、「やぐら」、「掘削管」、「泥水」の3つに分けられます。

油井やぐら

ロータリー装置、クレーン類、エンジン類（電動、蒸気、ディーゼル）などで構成されています。

掘削管

ドリルビットを先端に備えたパイプです。

泥水

掘削時に使用する特殊な液体で、泥水調整剤（水、油、ベントナイト、バライト、クロム、化学薬品）で調合され、ポンプ、フィルター、泥水ピット、ホースと配管類によって循環させます。

回転力

エンジンで発生した回転力は、ドローウォークを介してやぐら基部のロータリーテーブルに伝わり、ケリーパイプを回転させます。この回転は掘削パイプを経由してドリルビットに伝わり、地層を削ります。

ドリル・ストリング

クレーンで吊り下げられたパイプ全体をドリル・ストリングと呼びます。上から、トラベリング・ブロック、フック、ロータリー・スイベル、ケリーパイプ、多数のドリルパイプ、ドリルカラー、ドリルビットで構成されています。

ドリルビット

地層を削るための先端部品で、地層の硬さに応じてドラグ・ビット、ローリング・スリーコーン・カッター・ビット、タングステン・カーバイト・ボタン・ビット、ダイヤモンド・ビットなどが使い分けられます。

泥水の役割

泥水は、油井脇のプール（泥水ピット）で調整され、ポンプで掘削管内部へ送られます。ドリルビットから噴射して摩擦熱を奪い、掘りクズと一緒に地上に戻ります。また、掘削孔の崩壊や地層への水の浸入を防ぐ役割も担っています。

生産井

生産井では、油層直上の不透層まで通常通り掘り進め、ケーシングと呼ばれる鉄管を挿入して周囲をコンクリートで固めます。その内部に細いチュービングを通して不透層を掘り抜き、油層に採油管を設置して生産井が完成します。生産井・圧入井の地上部には、クリスマスツリーと呼ばれる坑口装置が取り付けられ、バルブ、圧力計、温度計、流量計などで構成されています。

ポンプ採油

自噴しない油層からは、ポンプを用いて原油を汲み上げます。ポンプには、サッカーロッド・ポンプ、サブマーシブル・ポンプ、ガスリフト・ポンプ、ハイドローリック・ポンプなどがあります。

その他の掘削技術

トップドライブ方式

ロータリーテーブルとケリーパイプを使わず、電動モーターで直接ドリルを回転させる方式で、作業時間の短縮に貢献しています。

傾斜掘り、水平掘り

目的の油層が真下になくても、横方向に掘り進むことができる掘削技術です。これにより、住宅地や他国の領土の地下にある油田へのアクセスも可能になっています。

特殊な掘削技術

ダイヤモンド・コンパクト・ビットは、耐久性が高く長時間の掘削が可能です。コイル・チュービング・リグは、柔軟なパイプを使用し、パイプの継ぎ足し作業を省略できます。

油井ごとの生産量

1本の生産井から採れる原油の量は、産油国では1日あたり3,000～4,000バレル程度が一般的ですが、日本では10バレル/日程度と少なく、サウジアラビアでは10,000バレル/日以上になる場合もあります。

日本の油井

新潟県新潟市には、ポンプ式の油井の遺構が残る「石油の世界館」があります。

参考文献

Schlumberger glossary - 石油掘削会社の辞書ページ（英語）

関連項目

油田
原油
石油プラットフォーム

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