油山寺

静岡県袋井市の村松地区に静かに佇む油山寺（ゆさんじ）は、真言宗智山派に属する歴史ある寺院です。この地を代表する「遠州三山」の一つに数えられ、正式には医王山薬王院油山寺と称します。本尊は薬師如来であり、特に眼病平癒にご利益があるとされ、古くから人々の篤い信仰を集めてきました。また、秋には境内が鮮やかな紅葉に包まれ、その美しさでも知られています。

寺院の歴史と信仰

油山寺の創建は、寺に伝わる縁起によれば大宝元年（701年）にまで遡ります。高僧・行基が開山したとされ、境内の井戸から油が湧き出したという伝説から、寺号を油山寺と称するようになったと伝えられています。

さらに時代が下り、天平勝宝元年（749年）には、眼病に悩まされていた孝謙天皇（当時）が当寺の「るりの滝」の霊水で眼を洗ったところ、病が癒えたと伝えられています。この奇瑞を受けて、油山寺は国家の安泰を祈願する勅願寺と定められ、以来、特に眼病平癒の寺として、多くの人々が眼の健康を願って参拝に訪れるようになりました。

また、この寺院の守護神である軍善坊大権現は、古くから足腰の健康にご利益があるとされ、かつて東海道を行き交った旅人たちからも広く信仰されてきました。通称「油山（あぶらやま）」とも呼ばれ、親しまれています。

戦国時代には、元亀3年（1572年）に戦火により伽藍が焼失するという悲劇に見舞われましたが、その後再建が進められました。特に三重塔は、天正2年（1574年）から再建が始まり、慶長16年（1611年）に屋上の相輪が上げられるなど、長い年月をかけて完成しました。

豊かな文化財

油山寺は、長い歴史の中で多くの貴重な文化財を今日に伝えています。国指定の重要文化財としては、室町時代に作られた本堂内厨子、そして前述の再建を経て江戸時代初期に完成した三重塔があります。さらに、江戸時代初期の万治2年（1659年）に建立され、明治初期に掛川城の大手二之門を移築したとされる山門も、国の重要文化財に指定されています。

静岡県の指定有形文化財としては、元禄12年（1699年）に遠江横須賀城から移築された書院や、宝暦14年（1764年）に遠江浅羽代官所から移築された方丈、そして元文3年（1738年）に建立された本堂などが挙げられます。

また、境内にそびえる御霊杉（みたますぎ）は、幹が松のようで枝が杉という珍しい樹形を持ち、静岡県の指定天然記念物となっています。寺に伝わる秘仏の本尊・薬師如来像は、100年に一度しか御開帳されない特別な存在です。茶祖として知られる栄西禅師の像も安置されています。

油山寺は、法多山尊永寺、萬松山可睡斎と共に遠州三山として並び称され、それぞれが異なる特色と歴史を持っています。多くの文化財と豊かな自然に囲まれた油山寺は、訪れる人々に静寂と癒しを与え、目の守護や足腰の健康を願う人々の信仰の場であり続けています。

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