沼田順義

沼田順義（ぬまた ゆきよし）

沼田順義は、寛政4年（1792年）に生まれ、嘉永2年12月17日（1850年1月29日）に没した江戸時代後期の国学者です。三芳野城長とも称しました。姓は大三輪、字は道意、楽水堂と号しました。

生涯

上野国群馬郡仲尾村（現在の群馬県高崎市）の富豪の家に生まれました。幼い頃から聡明でしたが、眼病を患ったことから医師を志し、13歳で高崎の大熊松泉・吉田平格に医術を学びました。15歳の時には、熊本の村井椿寿に入門しようとしましたが、椿寿が亡くなったため実現しませんでした。16歳で、武蔵国飯能の薬種商・大河原文左衛門を師とし、吉見の医師・金子祐寿と知り合いました。甲斐国の座光寺南屏に儒術を学び、磯野公道のもとで古医方を学びました。この間、江戸で林述斎に入門しました。

21歳で駿河国清水に医を開業しましたが、疫病に罹患し、上野国の湯治場で静養しました。一方で、湯治客の治療も行い、武蔵国川越の豪商・横田五郎兵衛と知り合いました。五郎兵衛は順義の人物と学識を見込んで川越に呼び寄せました。川越では楽水堂道意とも称し、私塾と医業を開きました。良心的な医療を行い、多くの人から信頼を得て繁盛しました。

失明の時期には諸説ありますが、この頃には病が進行していたとされています。やがて五郎兵衛の推薦で川越藩主・松平斉典に国学を進講する役を得て川越藩に召し抱えられました。順義が深く学問を始めたのは川越藩時代からで、文政13年（1830年）には本居宣長の『直毘霊』・『くず花』や市川匡麿の『まがのひれ』に対し、『級長戸風（しなとのかぜ）』を著して反駁しました。『級長戸風』は順義の『古事記』偽書説で知られています。天保4年（1833年）には賀茂真淵の『国意考』に対し、『国意考辯妄』を刊行し排斥しました。林家中興の祖・林述斎は順義の説に深く感銘を受け、順義の著書の巻に欠かさず序文を寄せました。

その後、眼病が再発し完全に盲目となり、江戸・湯島に居を移し、盲官の最高位の官名である検校に任じられ、川越の古名に因んで三芳野城長と称しました。視力を失っても順義の名声はますます高まり、門人が日々増え、講義を聴く者で溢れたと言われています。

嘉永2年12月17日（新暦1850年1月29日）、58歳で亡くなりました。墓は東京都台東区池之端の正慶寺にあります。

順義の継嗣・沼田一斎も蘭学など広く学問を修め、順義と同様に川越藩に仕えました。

参考文献

『川越の人物誌・第二集』（川越の人物誌編集委員会編、川越市教育委員会発行　1986年）
『川越大事典』（川越大事典編纂会編、国書刊行会発行　1988年）

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