法曹至要抄

法曹至要抄

『法曹至要抄』（ほっそうしようしょう）は、日本の平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて編纂された法律書であり、法曹官僚の坂上氏によって記録されました。この書物は、坂上明兼（中原明兼）がその原型を作成し、彼の孫である明基が最終的に完成させたとされています。現在の形は全3巻から構成されています。

1. 伝承と成り立ち

最初は、坂上明兼が単独で著した作品だと考えられていましたが、坂本太郎の研究によって、実際には明兼が父の中原範政から受け継いだ家学の影響を強く受けていることが示されました。明兼の原本に明基が加筆・修訂を行った結果、現在知られる形となりました。長又高夫も、明兼が原撰者で、孫の明基が後に編集を加えたと述べています。

興味深い点として、長又はこの書に引用されている多くの法令が長保2年（1000年）以前のものであると指摘しています。特に、明兼が『政事要略』という文献を参考にしており、その成立年である1002年以降の例外的な引用は明基の加筆とされていることが挙げられます。

2. 本書の意義

『法曹至要抄』は、律令国家の変化に伴い生じた法律問題を扱い、実務に関わる法律家たちが法的正義を見出すために注力した成果の積み重ねを示しています。本書は177の項目を収録しており、これらは「罪科」「売買」「質物」「喪服」など14に分類されています。特に、宗教慣習に関する「雑穢」の項目があり、これは本来の明法道の枠を超えた内容として注目されています。

12世紀初頭にその大筋が形作られ、その後も補足を重ねながら、最終的には同世紀の中頃に完成したとされています。この文献は、坂上氏と中原氏の家学を結集し、明法勘文作成のための資料としての役割を持っています。それによって、彼らが律令と現実の乖離に対する責任を回避しようとしていた一面も考えられます。

一方で、本書の内容は律令の条文を生かしながら、実際の運用に即した形で工夫がなされ、社会の法慣行を積極的に取り入れています。この面においては、後世の明法家においても、因准の法を用いて新たな法理を導出することが求められたと解釈する見方も存在しています。

3. 影響と公家法への足跡

本書においては、律・律集解・検非違使式・庁例などの条文や明法家の学説が数多く引用されており、これが後代の研究に多大な貢献をしています。また、室町時代には一条兼良による『法曹至要抄註』が編纂されるなど、注釈が加えられ、公家法においても重要な古典となっています。

4. 原典と写本

『法曹至要抄』の古写本として、陽明文庫本や神宮文庫本が伝わっています。また、他にも群書類従や日本古代法典に収められている部分も存在しています。

このように、『法曹至要抄』は日本の法的文献の中で重要な位置を占めており、その後の法解釈や実務に多大な影響を及ぼしてきたといえます。

もう一度検索