波志田山合戦

波志田山合戦

波志田山合戦は、治承・寿永の乱（1180年～1185年）の中で発生した局地戦の一つです。合戦の舞台となった「波志田山」は、富士北麓に位置すると考えられていますが、正確な場所は特定されていません。この戦いは、源頼朝の挙兵が引き金となり、甲斐源氏が平家方と衝突した出来事として記録されています。

合戦の背景

1180年4月、後白河法皇の皇子である以仁王は、平家打倒の令旨を東国の源氏一門に発しました。この令旨は、伊豆にいた源頼朝の元にも届き、頼朝は同年8月に挙兵します。しかし、石橋山（現在の神奈川県小田原市）で平家方の大庭景親に敗北し、一時的に勢力を失いました。

一方、甲斐国では、12世紀初頭から土着していた甲斐源氏が勢力を拡大していました。彼らの中には、頼朝に近い伊豆の武士と縁戚関係を持つ者もいましたが、平家方に仕える者もいました。

頼朝の挙兵に呼応した甲斐源氏の一族には、工藤景光や加藤光員・景廉兄弟などがいました。特に、加藤兄弟は石橋山の合戦後、富士山麓に潜伏していたとされています。頼朝自身も、甲斐源氏の存在を意識しており、舅である北条時政を甲斐に派遣しようとしていたという記録があります。

甲斐源氏の挙兵時期は明確ではありませんが、平家方は石橋山合戦の直後に甲斐へ軍勢を派遣しており、甲斐源氏もそれに対抗して挙兵したと考えられます。

合戦の経過

石橋山での敗戦後、頼朝を救援するため、甲斐源氏の安田義定を中心とする一族が立ち上がりました。一方、平家方は大庭景親の弟である俣野景久を派遣し、駿河国の目代である橘遠茂と共に甲斐へ軍勢を送りました。この両軍が激突したのが、波志田山合戦です。

合戦は、安田勢による奇襲から始まりました。俣野勢は、宿泊中に弓の弦を鼠に食い破られるという不運にも見舞われ、十分な反撃ができずに敗走したと伝えられています。波志田山の場所は、現在の富士[[河口湖町]]付近、足和田山あたりではないかと推測されています。

合戦の影響

この合戦での勝利は、甲斐源氏の存在を東国に知らしめる大きな契機となりました。新田義重は、甲斐源氏の棟梁である武田信義を、頼朝と並ぶ反平家勢力として認識し、平家方に近い藤原忠雅に書状を送っています。この後、新田義重も東国で独自の動きを見せるようになります。

一方、頼朝は安房国に脱出して再起を図り、多くの東国武士を集結させました。甲斐源氏の武田信義や一条忠頼らは、信濃国へ出兵し、その勢力を拡大しました。その後、頼朝の使者を迎えて協力関係を築き、駿河方面での戦いにも参加することになります。

波志田山合戦は、源平合戦における一局地戦に過ぎませんが、その後の甲斐源氏の活躍、そして東国全体の情勢に少なからず影響を与えた重要な戦いであると言えるでしょう。

参考資料

* 秋山敬「源頼朝の挙兵と甲斐源氏」『山梨県史』通史編2中世

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