以仁王

以仁王：平氏討伐の令旨を発した悲劇の皇族

以仁王（もちひとおう）は、平安時代末期に活躍した、後白河天皇の第三皇子です。三条高倉に邸宅を構えていたことから、三条宮、高倉宮とも呼ばれていました。彼は、源氏に平氏打倒の挙兵を促す令旨を発したことで歴史に名を残しています。しかし、その生涯は波乱に満ちたものでした。

幼少期と皇位継承への道

以仁王は、後白河天皇と藤原季成の娘・成子の子として生まれました。母方の家系は名門・閑院流藤原氏であり、その家柄も相まって、幼い頃から英才の誉れ高く、学問、詩歌、書道、笛など多岐に渡る才能を示しました。母方の姉には、歌人として名高い式子内親王がいました。

幼少期には天台座主・最雲法親王の弟子となりましたが、最雲の死後還俗。その後、八条院暲子内親王の猶子となり、皇位継承の有力候補と目されていました。しかし、高倉天皇の生母であり、権勢を誇った平滋子の妨害に遭い、皇位継承は叶いませんでした。

特に、仁安元年（1166年）に母方の伯父である藤原公光の失脚は、以仁王の皇位継承の可能性を完全に閉ざすこととなり、親王宣下を受けることもありませんでした。これは、『平家物語』においては因果応報として描かれており、必ずしも史実に基づいた記述とは言い切れません。

治承三年の政変と平氏討伐への決意

治承3年（1179年）、平清盛はクーデターを起こし、後白河法皇を幽閉、関白・松殿基房を追放しました（治承三年の政変）。この政変の後、以仁王は長年知行してきた城興寺領を没収されるなど、平氏からの圧力を受けるようになりました。

こうした状況の中、以仁王はついに平氏討伐を決意します。治承4年（1180年）4月、源頼政の勧めに従い、全国の源氏に平氏追討の令旨を発布しました。これは、各地に潜伏する源氏に蜂起を促す、重要な一歩となります。

以仁王の挙兵と最期

以仁王自身も「最勝親王」と称して挙兵を試みましたが、準備が整う前に計画が平氏方に漏れてしまいます。5月15日、平氏の圧力により皇族籍を剥奪され、源姓を賜り「源以光」となり、土佐国への配流が決まりました。

しかし、以仁王は脱出に成功し、園城寺に逃れました。園城寺には頼政も合流しましたが、延暦寺の協力を得られず、また園城寺内部にも親平氏派がいたため、南都の寺院勢力を頼る決断をします。

5月26日、頼政が宇治で防戦する中、以仁王は興福寺を目指しましたが、南山城の加幡河原で平氏方の追討軍に追いつかれ、討ち取られてしまいます。

以仁王の令旨とその後

以仁王の平氏追討計画は失敗に終わりましたが、彼の令旨は、源頼朝や木曾義仲など各地の源氏の挙兵を促し、平氏滅亡の大きなきっかけとなりました。朝廷は当初、令旨を偽物とみなしていましたが、後に本物である可能性が出てきました。特に、以仁王が高倉天皇や安徳天皇に替わって即位することを仄めかす文章が含まれていたことに、朝廷は強く反発しました。これは、高倉天皇が後白河法皇が選んだ後継者であり、その子孫に皇位を継承させることは、京都の公家社会における共通認識であったためです。このため、以仁王の行動は皇位簒奪を謀ったものと受け取られるようになり、その後も長年「刑人」として扱われ続けました。

以仁王の墓所は、京都府木津川市にある高倉神社境内にあると伝えられています。また、以仁王を祀る神社は各地に存在し、その生涯と令旨は、現在も語り継がれています。各地には、以仁王に関する伝承も残っており、その神秘的な側面も垣間見ることができます。彼の生き様は、現代においても人々の心に深く刻まれています。

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