泰緬戦争 (1759年-1760年)

泰緬戦争

泰緬戦争（たいめんせんそう）は、18世紀中頃に発生した、ビルマ（現在のミャンマー）のコンバウン王朝とシャム（現在のタイ）のアユタヤ王朝との間の軍事衝突です。この戦争は、両国間の長年の対立と地域における勢力争いを背景に起こりました。

戦争の背景

コンバウン王朝を興したアラウンパヤー王は、1756年にビルマ南部のモン族によるペグー王朝を滅亡させ、国内を統一しました。しかし、旧ペグー王朝の残党による抵抗運動はその後も続き、反乱が各地で起こりました。アラウンパヤー王はこれらの反乱を鎮圧しましたが、一部のモン族反乱者たちは、当時アユタヤ王朝の領域であったテナセリム地方へ逃れました。

アラウンパヤー王は、亡命した反乱者たちの身柄を引き渡すようアユタヤ王朝に要求しました。ところが、アユタヤ側はこの引き渡し要求を拒否します。このアユタヤの姿勢に対し、アラウンパヤー王は軍事侵攻をもって応じることを決断しました。1759年、アラウンパヤー王は自ら軍を率い、次男シンビューシンや、初期からの功臣ミンカウンノーラタらを伴って、モン族反乱者を支援し、引き渡しを拒んだアユタヤ王朝への侵攻を開始しました。

歴史家の中には、G.E.ハーヴェイなどのように、反乱者の引き渡し拒否は単なる口実であり、アラウンパヤー王の真の目的はシャムを征服し、かつて16世紀にタウングー王朝のバインナウン王が築いた、シャムを含む広大な版図を支配した「第二帝国」の栄光を再現することにあった、と考察する者もいます。この見方によれば、戦争は単なる国境問題ではなく、ビルマによる東南アジア大陸部における覇権樹立を目指したものでした。

戦いの経過とアユタヤ包囲

コンバウン王朝のビルマ軍は、アユタヤ王朝領であるテナセリム地方へ侵攻を開始しました。最初の大きな衝突はダウェイで起こり、ビルマ軍はシャム軍を破ることに成功しました。その後もビルマ軍は南下を続け、重要な港湾都市であるメルギーを占領しました。さらに進撃したビルマ軍は、狭隘なクラ地峡を越えて内陸部へ進み、アユタヤ王朝の首都であるアユタヤを目指しました。

ビルマ軍は快進撃を続け、1760年3月にはアユタヤ近郊の戦略的要衝であるスパンブリーの要塞を制圧しました。アラウンパヤー王は、迫りくる雨季が戦局に不利に働くことを懸念し、早期の決着を図るため、そのままアユタヤの都を包囲する作戦に出ました。

しかし、アユタヤを包囲していた最中、予想外の事態が発生します。ビルマ軍の総司令官であるアラウンパヤー王が突然、重い病に罹患したのです。指揮官の病状悪化を受け、ビルマ軍はアユタヤの包囲を解き、本国への撤退を開始することを余儀なくされました。

撤退と戦争の終結

ビルマ軍はアラウンパヤー王を伴って撤退を続けました。幸いにも、ビルマ軍はアユタヤ軍による追撃をかわし、大きな損害を受けることなく撤退に成功しました。しかし、撤退の途上、マルタバン近郊において、アラウンパヤー王は病状が悪化し、惜しくも崩御しました。偉大な指導者の死により、ビルマ軍の遠征は中断され、アユタヤ征服という目標はこの時達成されませんでした。

この最初の泰緬戦争は、コンバウン王朝によるアユタヤ侵攻として始まりましたが、アラウンパヤー王の急死によって一時的な終結を迎えました。両国の根本的な対立が解消されたわけではなく、数年後には再びビルマによる大規模なアユタヤ侵攻が行われることになります。この戦争は、アラウンパヤー王の東南アジアにおける野望を示しつつも、その実現が阻まれた歴史的な出来事として記憶されています。

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