バインナウン

バインナウン（Bayinnaung、1516年 1月16日生 - 1581年 10月10日没）は、16世紀のビルマ（現ミャンマー）を統治したタウングー王朝の重要な君主です（在位期間：1550年 4月30日 - 1581年 10月10日）。彼の治世は、王朝が史上最大の版図を誇った時代と重なります。特に、小タイ族によるアユタヤ王朝（現タイ）との度重なる軍事衝突で知られ、タイの歴史書には彼の名が頻繁に登場します。タイ語ではブレーンノーン（Burengnong）と呼ばれ、漢字表記では莽応龍と記されます。

生涯

バインナウンの出自は王族ではなく、地方でサトウヤシから砂糖を製造する業者であったと伝えられています。幼少期には、彼のまわりにシロアリ（チャテー）が集まったことから、「チャテー」というあだ名で呼ばれました。彼の母は、バインナウンの出生直後に生まれたタウングー王ミンチーニョーの息子、後のタビンシュエーティーの乳母となりました。このため、バインナウン自身も幼い頃から王宮で育てられることになります。

王宮で成長したバインナウンは、成人後に役職を与えられます。しかし、王女との恋愛が問題となり、ミンチーニョー王は彼を罰しようとしますが、仏僧の仲介によって難を逃れました。やがて、乳母兄弟であるタビンシュエーティーが1530年に即位すると、バインナウンはこの王女との結婚を許されます。この時、彼は「バインナウン」（王の兄、という意味）という名を与えられました。タビンシュエーティーの治世中、バインナウンは王の率いる多くの軍事遠征に参加し、目覚ましい戦功を立てて猛将として名を馳せます。その功績が認められ、彼はタビンシュエーティーによって副王に任命されるまでに至ります。

1550年にタビンシュエーティーが崩御すると、タウングー王朝は一時的に分裂の危機に瀕します。しかし、バインナウンは崩御したその年のうちに、タビンシュエーティーの弟と協力して、モン族に奪われていた首都タウングーを奪還しました。これにより、彼は中央ビルマの支配を確立します。1553年には、北部の重要都市アワを攻撃して占領し、そこを新たな首都としました。

バインナウンは、先代の王の時代から仕えていたポルトガル人の鉄砲隊を効果的に活用し、急速に領土を拡大していきます。1558年には、現在のタイ北部にあたるラーンナータイ王朝の中心地、チエンマイを支配下に置きました。1559年までには、彼は上ビルマ全域を完全に掌握します。同年には、西方のインドから侵攻してきたマニプール軍をも退けました。

彼の最大の目標の一つは、タビンシュエーティーが生前から切望していたアユタヤ王朝の征服でした。1569年、バインナウンはアユタヤの首都に対する大規模な攻撃を開始します。難攻不落と謳われたアユタヤ城塞に対し、彼は1年以上に及ぶ兵糧攻めを展開しました。これにより城内の士気が低下し、脱走兵が続出した結果、アユタヤはついに陥落します。彼は「白象王」として知られるアユタヤ王チャクラパットから、象4頭と人質を獲得し、毎年30頭の象と300斤の銀をタウングー朝に納めることを約束させ、アユタヤを属国として統治しました。

しかし、アユタヤではその後、チャクラパット王や後継のマヒン王が死去します。バインナウンはアユタヤのマハータンマラーチャー（後のサンペット1世）を新しい王として即位させました。サンペット1世は、タウングー朝に人質として捕らえられていた自身の息子ナレースワンを、娘と引き換えに解放するよう求めます。バインナウンはこの要求に応じますが、これがバインナウン死後のタウングー王朝にとって大きな災いとなります。解放されたナレースワンは、後にタウングー朝に対する反抗の旗頭となるからです。

実際、1574年には、ナレースワンは現在のラオスにあったラーンサーン王国と協力してタウングー朝への反乱を起こしますが、この時は鎮圧され、アユタヤは再び恭順の姿勢を示しました。同年、バインナウンはラーンサーン王国への攻撃も試みましたが、ラーンサーン王セーターティラートの巧みな防衛の前に失敗に終わっています。

1581年、バインナウンは66歳でその生涯を終えました。在位期間は31年でした。彼が崩御すると、この強力な王の死に乗じて、各地の有力者が次々と独立を試み始めます。タウングー国内は再びバインナウンが即位する前の分裂状態へと逆戻りしてしまいました。しかし、平民の身分から立身し、一代でビルマをかつてない規模に拡大したバインナウンの功績は、ビルマ人の記憶に深く刻まれました。彼は現在でも、ビルマの歴史における最も偉大な英雄の一人として尊敬を集めています。

参考文献

大野徹『謎の仏教王国パガン』日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年。

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