津田松苗

津田松苗

津田松苗（つだ まつなえ、1911年11月15日 - 1975年10月9日）は、兵庫県出身の昆虫学者で、特に水生昆虫学と汚水生物学の分野で日本における先駆者として知られています。日本陸水学会の会長も務めました。

生涯

1911年、兵庫県尼崎市に生まれた津田松苗は、後に京都へ移り住み、旧制第三高等学校でドイツ語を専攻しました。当初は医学を志望していましたが、健康上の理由で断念し、1932年に京都帝国大学（現在の京都大学）理学部に入学、動物学を専攻しました。動物学教室では川村多実二教授に師事し、水生昆虫の研究に打ち込みました。

1935年に京都帝国大学を卒業後、大学院へ進学。1937年には交換留学生としてドイツのミュンヘン大学に留学し、デモル教授（Franz Démoll、1882-1960）のもとで汚水生物学を学びました。この留学経験が、帰国後の研究活動に大きな影響を与え、日本に汚水生物学を導入するきっかけとなりました。

1941年、京都帝国大学の助手に就任。1943年には、トビケラに関する研究論文で理学博士号を取得しました。論文のタイトルは「日本産毛翅目に関する研究(独文)」でした。1946年、奈良女子高等師範学校（現在の奈良女子大学）の講師となり、翌年には教授に就任。研究活動は水生昆虫の生態や分類から始まりましたが、次第に渓流の群集生態学や応用陸水学へと重点を移していきました。特に1960年代からは、水質汚濁の生態学的解析、すなわち汚水生物学に注力しました。水質汚濁の生物学的指標として「ベック・津田α法」を提唱し、その名を知られています。

1962年には、日本初の水生昆虫に関する著書である『水生昆虫学』（北隆館）を出版。この著書は日本の水生昆虫研究を大きく前進させ、多くの若い研究者を育成するきっかけになったと評価されています。1964年には『汚水生物学』（北隆館）を出版し、水質汚濁研究の発展を促進する画期的な書として評価されました。同年、水処理生物学会を発足させ、副会長に就任しました（会長は近藤正義）。

1970年代からは、『生物による水質調査法』（1974年）、『日本湖沼の診断』（1975年）など、多数の著書を出版しましたが、その頃には病に侵されていました。1975年、奈良女子大学を定年退職。そのわずか半年後の10月9日に亡くなりました。生涯に残した研究業績は380本にも及びます。

主な著書

『水生昆虫学』（1962年、北隆館）
『汚水生物学』（1964年、北隆館）
『水質汚濁の生態学』（1972年、公害対策技術同友会）
『陸水生態学』（1974年、共立出版）
『生物による水質調査法』（1974年、山海堂）
『水生昆虫の生態と観察』（1974年、ニュー・サイエンス社）
『日本湖沼の診断』（1975年、共立出版）

参考文献

川合禎次、谷田一三（共編）『日本産水生昆虫―科・属・種への検索』（2005年、東海大学出版会）
* 渡辺仁治「津田松苗先生を偲ぶ」日本生態学学会誌、29(2)、203、1979年6月

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