川村多実二

川村多実二：日本の淡水生物学の開拓者

川村多実二（1883年5月4日 - 1964年12月16日）は、日本の動物学者であり、特に淡水生物学の分野において、その先駆的な業績で名を馳せています。岡山県津山市に生まれた川村は、河川や湖沼といった淡水域の生物学を創始し、動物生態学や動物心理学の研究においても重要な貢献をしました。また、多くの研究者を育成した教育者としても知られています。

学術的業績

川村は、東京帝国大学で動物学を学び、卒業後は京都帝国大学に移り、石川日出鶴丸のもとで研究に従事しました。大津臨湖実験所の設立に尽力し、初期の研究拠点としました。1918年には、彼の代表的な著作である『日本淡水生物学』を出版し、日本における淡水生物学の基礎を築きました。この書籍は、当時の学生や研究者にとって必読の書となり、日本の淡水生物学の発展に大きく貢献しました。

1919年には、京都帝国大学に日本で2番目の動物学教室が開設され、助教授として教鞭をとりました。コーネル大学への留学経験から、帰国後に動物生理生態学講座を開設し、日本で初めて動物生態学の講義と実習を実施しました。彼の教育方法は、学生たちに大きな影響を与え、後の日本の生態学研究を担う人材を数多く輩出しました。

社会的貢献

川村は、学術研究だけでなく、社会的な活動にも積極的に参加しました。日本陸水学会の第2代会長を務め、「陸水」という言葉を提唱しました。これは、海水を除く湖水、河水、地下水などを指す包括的な用語として、現在でも広く使用されています。また、日本野鳥の会京都支部の初代支部長として、鳥類保護の活動にも尽力しました。

京都市立美術大学（現：京都市立芸術大学）の学長や京都市の風致審議会議員を務めるなど、文化や自然保護にも貢献しました。水彩画や和歌を嗜み、京都市の文化団体懇談会会長も務めるなど、多才な人物でした。これらの活動が評価され、1963年には京都市の名誉市民に選ばれました。

人となり

川村は、研究者としてだけでなく、教育者としても、また文化人としても、多くの人々に慕われました。彼の講義は、常に学生たちの知的好奇心を刺激し、研究への情熱を掻き立てるものでした。また、温厚な人柄で、誰に対しても分け隔てなく接し、多くの人々から信頼されていました。

1964年、探鳥の旅先で生涯を閉じましたが、彼の残した業績は、日本の淡水生物学の発展に大きく貢献し、後世の研究者たちに多大な影響を与え続けています。彼の収集した鳥類標本は、京都大学総合博物館や大阪市立自然史博物館に所蔵されており、今もなお研究に活用されています。

栄誉

1943年 従三位
1943年 正三位
1963年 京都市名誉市民
1964年 勲二等旭日重光章

著書

『芸用解剖学』（1913年、興文社）
『日本淡水生物学』（上下巻、1918年、裳華房）
『生命と性欲』（1919年、大鐙閣）
『改訂博物学新教科書』（1925年、星野書店）
『珍しい動植物』（1929年、アルス） - 川村清一との共著。
『動物生態学』（1930年、岩波書店）
『動物学読本』（1932年、星野書店）
『最新女子動物学』（1934年、星野書店）
『動物群聚研究法』（1938年、建文館）
『鳥の歌の科学』（1947年、臼井書房）
『心の進化』（1947年、高桐書院）
『動物と人生』（1949年、広島図書）
* 『野鳥雑詠 : 川村貴一歌集』（1966年、初音書房）

川村多実二は、日本の動物学、特に淡水生物学の分野において、その名を永遠に刻むことでしょう。

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