津高和一

津高和一：詩情あふれる抽象表現の軌跡

津高和一（1911年-1995年）は、20世紀を代表する日本の洋画家であり、詩人でもありました。大阪府で生まれ、兵庫県西宮市で育ちました。16歳で詩作を始め、個人雑誌を発行するなど、若くして文才を開花させます。しかし、軍隊での経験や結核療養、そして治安維持法の影響を受け、詩人としての道を断念せざるを得なくなります。

その後、絵画に転向した津高は、中之島洋画研究所で研鑽を積みました。戦後の1946年、行動美術協会展に出品し、本格的に画家としての道を歩み始めます。初期の作品は具象的でしたが、やがて独自の詩情あふれる抽象表現へと進化を遂げ、その独特な画風は国内外で高い評価を受けました。

1950年代以降は、サンパウロ・ビエンナーレ展への出品や、ニューヨーク・グッゲンハイム賞美術展への出品など、数々の国際的な展覧会に参加。国内でも多くの賞を受賞しました。特に、1950年の行動美術関西展での友山荘賞受賞や、翌年の行動展での今泉篤男氏らからの注目は、彼の才能を広く知らしめる契機となりました。

津高は、抽象画を描きながら、独自の芸術活動も展開しました。毎年秋には自宅の庭で「対話のための作品展」を開催し、1978年には「架空通信講座」を開設、様々な分野の講師を招いて交流を深めました。また、1979年にはアメリカ巡回展にも参加するなど、国際的な活動も精力的に行っています。西宮市の夙川河川敷では「架空通信テント美術館展」を開催し、多くの現代作家を迎え、シンポジウムなどを通して現代美術の活性化にも貢献しました。

長年にわたり大阪芸術大学美術学科教授を務め、多くの後進を育成しました。しかし、1995年、阪神・淡路大震災により、自宅が倒壊し、妻とともに地震で亡くなりました。その死は、西宮市大谷記念美術館での個展開催準備中という、まさに最盛期の悲劇でした。

津高和一の作品は、ニューヨーク近代美術館、大英博物館、サンパウロ現代美術館など、世界各地の著名な美術館に所蔵されています。彼の作品は、簡潔ながらも深い詩情を感じさせ、見る者に静かな感動を与え続けます。晩年の活動では、美術における「対話」を重視し、積極的に交流を深め、現代美術の発展に貢献した点も特筆に値します。彼の作品は、単なる絵画を超え、時代と社会との対話を促すメッセージとして、今もなお私たちの心に深く響き渡っています。

主な作品

黄昏の車庫裏 (1946年)
母子像 (1951年)
埋葬 (1952年)
イマA イマB (1958年)
* 黒と白 (1961年) - ニューヨーク近代美術館所蔵

津高和一の生涯は、激動の時代を生き抜いた芸術家の苦悩と創造の物語です。彼の作品は、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。彼の功績は、後世の芸術家たちに大きな影響を与え続けるものと考えられます。ジュンク堂書店のブックカバーのデザインも手がけていたことからも、その才能の多様さが伺えます。彼の作品を通じて、私たち現代人は、普遍的な人間の感情や社会への鋭い洞察を垣間見ることができるのです。

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