洪文衡

洪文衡（こう ぶんこう）は、明代に活躍した官僚であり、字（あざな）は平仲（へいちゅう）と称しました。彼は徽州府歙県（きしゅうふしゅうけん）の出身で、1560年に洪豪（こうごう）と程氏（ていし）の次男としてこの世に生を受けました。

1589年、洪文衡は進士の試験に合格し、官僚としてのキャリアをスタートさせます。最初に戸部主事（こぶしゅじ）に任じられると、彼はその職務に真摯に取り組みました。当時、万暦帝（ばんれきてい）が皇長子である朱常洛（しゅじょうらく）を王に封じようとした際、洪文衡は同僚の賈巌（かげん）と共に上疏（じょうそ）を行い、皇長子を皇太子に立てるよう強く主張しました。この行動は、彼の強い正義感と、国を思う熱意を示すものでした。

その後、洪文衡は礼部主事（れいぶしゅじ）に転任しました。彼は郎中（ろうちゅう）の何喬遠（かきょうえん）と親交がありましたが、何喬遠が罪に問われて失脚した際には、考功主事（こうこうしゅじ）の地位にあったにもかかわらず、病を理由に辞職し、故郷へと戻りました。しかし、彼の能力は高く評価されており、再び南京工部主事（なんきんこうぶしゅじ）として召し出され、後に郎中となりました。彼は、旧制の復活に尽力し、宦官（かんがん）の政治への干渉を排除しようと努め、無駄な経費の削減にも取り組みました。洪文衡は工部での9年間の勤務を経て、光禄寺少卿（こうろくじしょうけい）に進みました。

1610年には、太常寺少卿（たいじょうじしょうけい）に転じ、四夷館（しいかん）を監督する役目を担いました。その際、顧憲成（こけんせい）の起用について、御史（ぎょし）の徐兆魁（じょちょうかい）から批判を受けました。洪文衡は、万暦帝が徐兆魁の言葉に惑わされることを恐れ、反論の上奏を行いました。1612年には、大理寺少卿（だいりじしょうけい）に転任しましたが、服喪のために官を辞しました。

1620年、洪文衡は太常寺卿（たいじょうじきょう）として再び朝廷に復帰しました。しかし、翌年の1621年7月、彼は太廟（たいびょう）に憲宗（けんそう）を祀らず、睿宗（えいそう）を祀るよう上奏しましたが、天啓帝（てんけいてい）には受け入れられませんでした。失意のうちに、同年10月に62歳でこの世を去りました。彼の死後、工部右侍郎（こうぶうじろう）の位が追贈されました。

洪文衡には、五人の息子と一人の娘がいました。長男は洪嗣成（こうしせい）、次男は洪嗣彦（こうしげん）、三男は洪嗣廉（こうしれん）、四男は洪嗣憲（こうしけん）、五男は洪嗣藻（こうしそう）といい、娘は汪氏（おうし）に嫁ぎました。

洪文衡の生涯は、明代の政治において、官僚として正義を貫き、国のために尽力した人物として、歴史にその名を刻んでいます。彼の行動と信念は、後の時代の人々にも影響を与え続けています。

参考文献: 『明史』巻242 列伝第130

もう一度検索