浄法寺漆

浄法寺漆とは

浄法寺漆（じょうぼうじうるし）は、主に岩手県二戸市浄法寺町を拠点とする漆掻き職人が、岩手県北部や青森県南部、秋田県北東部の漆の木から採取した生漆を指します。現在、日本国内で使用される漆の98%以上が中国産である中、浄法寺漆は国産漆として最大の生産量を誇り、その品質の高さで知られています。

歴史

浄法寺漆の歴史は、平安時代に浄法寺町の天台寺の僧侶が使用していた漆器「御山御器」に遡ると考えられています。これらの漆器には、地元産の漆が使われていたと推測されていますが、浄法寺地域での漆掻きの記録は江戸時代以降に残されています。

江戸時代には、南部藩の統制下で漆掻奉行が置かれ、漆の持ち出しが禁じられました。漆とともに実も採取していたため、木を弱らせない「養生掻き」という手法が用いられていました。明治時代になると、漆の需要が高まり、福井県から「越前衆」と呼ばれる漆掻き職人が出稼ぎに来るようになりました。彼らは、一本の木から一年で全ての漆を採取する「殺し掻き」という方法を用いていました。

昭和から平成にかけて、浄法寺漆は中尊寺金色堂、金閣寺、日光東照宮などの国宝級文化財の修復に採用されました。2015年には、文化庁が国宝や重要文化財の修繕に国産漆を使用するよう通知しましたが、国内生産量は需要の半分程度に留まっています。浄法寺地域では、昭和20年代には300人以上いた漆掻き職人が、平成期には20人程度に減少しました。職人の高齢化、漆の苗木の不足という課題に対し、二戸市は2016年度から、漆掻き職人を育成する「うるしびと」制度を設け、漆の植樹を奨励しています。また、「日本うるし掻き技術保存会」が若手研修生への指導を行っています。

品質

一般的な国産漆の場合、ウルシオール含有率は70～75%、水分は20～25%程度ですが、浄法寺漆はウルシオール含有率が高いことで知られています。この含有率の高さが、浄法寺漆の高品質を支えています。

生産と加工

漆掻き職人は、前年に原木を購入し、胸高直径10cm以上の木から漆を採取します。特殊な道具を用いて樹幹に傷をつけ、そこから分泌される漆液を採取します。漆液の採取が可能になるまで、約20年の生育期間が必要です。浄法寺漆の職人数は25人前後で、年間生産量は1トン前後で推移しています。

採取された漆は、光沢や粘度を調整するために精製されます。まず「ナヤシ」と呼ばれる撹拌作業で成分を均一化し、次に「クロメ」という撹拌作業で余分な水分を取り除きます。

流通

浄法寺漆は、1貫目（3.75kg）以上の樽単位で、国内の仲買人や漆精製業者に出荷されます。近年では、「浄法寺漆認証制度」が導入され、認証を受けた樽には認証マークが貼付されています。

現在、浄法寺漆は、大量受注への対応、職人の熟練に時間がかかること、原木の確保が困難であるといった課題に直面しています。

受賞

2011年には、浄法寺漆産業がグッドデザイン賞（中小企業庁長官賞）を受賞しています。

脚注

二戸市浄法寺町　漆の滴生舎

浄法寺漆（登録番号第73号）:登録の公示・登録産品紹介 - 農林水産省[[地理的表示]保護制度登録産品](https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/73.html)

関連項目

* 漆

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