浅井万金膏

浅井万金膏について

浅井万金膏（あざいまんきんこう）は、愛知県一宮市浅井町で製造され、販売されていた伝統的な膏薬です。この膏薬は、「相撲膏」とも呼ばれ、多くの人々に親しまれてきました。江戸時代後期には全国に広まり、その使用は非常に普及していました。最盛期には、なんと年間400万枚以上が手作業で生産されており、愛知県の浅井町は「浅井万金膏の町」として知られていました。

歴史の背景

浅井万金膏の起源は、1709年（宝永6年）にさかのぼります。この年、初代森林平が尾張国葉栗郡東浅井村（現在の愛知県一宮市浅井町）で接骨医を開業しました。彼の在世中、すなわち1772年以前に、浅井万金膏の製造と販売が始まったとされています。伝説によれば、ある日初代森林平が釣りの際に怪我をした鶴を見つけ、その鶴に手当てをしたところ、感謝の意として製法を教えてもらったと言われています。

幕末には、尾張藩お抱えの力士、境川浪右エ門が治療のために滞在し、驚くべきことに、彼は完治を果たして大関に昇進しました。この出来事により、浅井万金膏は全国的に注目されるようになりました。さらに、1864年には第15代尾張藩主・徳川茂徳が落馬事故で怪我をし、浅井万金膏の治療を受け、無事に回復した後、特別な薬研（葵紋入り）を賜るという事件もありました。

特徴と使用方法

浅井万金膏は、複数の生薬を火で加熱し、ペースト状にした黒色の膏薬を和紙に取り付けた形状をしています。使用方法は、膏薬を温めてから皮膚に貼るというもので、打撲や捻挫、肩こり、神経痛、腰痛、リウマチなどの症状に効果があるとされています。また、薬袋には「いたむところによし」という言葉が書かれており、その効能を強調しています。あかぎれ用の固形タイプも存在し、こちらは熱した火箸で膏薬を削り取り、患部に直接塗ることになっていました。

相撲との関わり

利益を上げるため、歴代の森林平は相撲を好んでいました。治療を受けに訪れる江戸相撲の力士たちを全快するまで無料で泊め、面倒を見ていたと言われています。そのため、彼らのために特別に設けられた部屋も存在していたほどです。明治以降も相撲との関係は深く、廃業後に浅井町に移住した元力士も数多くいました。加えて、浅井町では相撲の準場所が行われることもあり、日本相撲協会からは森家に特別な配慮が行われていたとのことです。

現在の状況

現在、森接骨院は内科医院に改装され、依然として同じ場所に存在しています。この建物は明治時代に建てられたとされており、当時の雰囲気を残しています。また、製造・販売を行っていた森林平製薬も近隣に現存しており、浅井万金膏の歴史は現在も地域の文化として受け継がれています。

浅井万金膏は、伝統的な膏薬として、多くの人々に愛され続けてきた一方で、時代の変化に伴う医薬品市場の影響を受け、1997年には製造が中止されました。それでも、過去の歴史や相撲との関わりは、地域に根付いた重要な文化遺産として語り継がれています。

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