徳川茂徳

徳川茂徳：激動の幕末を駆け抜けた大名

徳川茂徳（とくがわ もちなが）は、江戸時代末期に活躍した大名です。美濃国高須藩の11代藩主、尾張藩の15代藩主、そして一橋徳川家の10代当主という、三つの異なる家を渡り歩いた特異な経歴を持ちます。高須藩主時代は松平義比（まつだいら よしちか）、尾張藩主時代は徳川茂徳、一橋家当主時代は徳川茂栄（とくがわ もちはる）と、その時々の立場によって名を変えました。隠居後は玄同（げんどう）と号し、この名でも知られています。

生い立ちと高須藩主就任

天保2年（1831年）、高須藩10代藩主・松平義建（まつだいら よしたつ）の五男として生まれました。幼名は鎮三郎（しんざぶろう）。後に父・義建から一字を賜り、建重（たつしげ）と名乗りました。しかし、兄たちの早世や他家への相続により、嘉永2年（1849年）に高須藩の世子となります。同年には13代将軍・徳川家定に謁見し、嘉永3年（1850年）に父の隠居を受けて高須藩主となり、義比と名を改めました。

尾張藩主への転身と苦悩

安政5年（1858年）、安政の大獄の影響で、兄である尾張藩主・徳川慶恕（とくがわ よしこと、後の慶勝）が隠居謹慎処分を受けると、茂徳はその後を継いで尾張藩主となります。14代将軍・徳川家茂（とくがわ いえもち）から偏諱を受け、茂徳と名乗りました。しかし、この異例の人事は藩内の佐幕派によるもので、藩内には慶勝を支持する勢力も根強く存在していました。

万延元年（1860年）、茂徳は自身の後継者として、慶勝の子である徳成（のちの義宜）を養子に迎えます。しかし、桜田門外の変で大老・井伊直弼が暗殺されると、藩内では慶勝の復帰を望む声が高まり、茂徳自身も高須藩主への復帰を考えるようになります。結局、文久3年（1863年）に隠居し、藩主の座を義宜に譲り、隠居後は玄同と号しました。この間、名古屋城に保管されていた名刀「一期一振」を孝明天皇に献上しています。

幕政への参与と一橋家相続

慶応元年（1865年）になると、茂徳は長州再征において幕府から征長総督への就任を打診されます。しかし、慶勝の側近らの反対により実現せず、代わりに上洛を命じられ、大坂城で家茂の側近として幕政に関わることになります。この頃、茂栄と改名。兵庫開港問題では、一橋家当主の徳川慶喜（とくがわ よしのぶ）らと共に奔走し、家茂の信頼を得ました。同年10月には、将軍不在の江戸の留守を任され、東上しました。

慶応2年（1866年）には、兄である慶勝や弟の松平容保（まつだいら かたもり）の仲介により、15代将軍に就任した慶喜に代わって、一橋家の当主となります。当初は清水家を相続する予定でしたが、慶喜の意向により変更されました。戊辰戦争が勃発すると、茂徳は兄の慶勝の意を受け、徳川家救済のために奔走します。江戸から江尻宿に赴き、東征大総督・有栖川宮熾仁親王に慶喜の寛大な処分を求める嘆願書を提出しましたが、既に新政府との間で降伏条件は妥結済みでした。

明治維新後と晩年

戊辰戦争後、茂徳は田安家当主の徳川慶頼（とくがわ よしより）らと共に独立した大名に列し、一橋藩を立藩します。明治2年（1869年）には版籍奉還を願い出ますが、認められず、知藩事となることはありませんでした。明治3年（1870年）には家臣たちに別れを告げ、一橋藩は完全に解体されました。明治17年（1884年）に54歳でこの世を去り、正二位まで昇進しました。法号は顕樹院殿。

逸話

徳川家茂は、兵庫開港問題における茂徳の対応を非常に高く評価し、「玄同殿は向後親と思ふそよ」と述べています。茂徳も家茂に対して深い思慕の念を抱いており、家茂の肖像画制作にも積極的に関わったとされています。

また、万延元年（1860年）には、ヘボン式ローマ字で有名なジェームス・カーティス・ヘボンらが東海道で尾張藩の大名行列を見物した際、彼らが跪くことを拒否したため、藩主（当時、茂徳と思われる）が駕籠を止め、オペラグラスで観察するという一幕があったと伝えられています。

系譜

父：松平義建
母：陽清院
養父：徳川慶勝、徳川慶喜
正室：政姫（丹羽長富の娘）
長男：松平義端
四男：徳川達道
* 養子：徳川義宜

徳川茂徳は、激動の幕末において、その立場を幾度も変えながらも、常に誠実に時代と向き合った人物でした。彼の生涯は、幕末の複雑な政治情勢を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。

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