浅井樹

広島カープが生んだ勝負師：浅井樹の軌跡

浅井樹は、1971年12月14日に富山県富山市で誕生した元プロ野球選手です。左投げ左打ちの内野手および外野手として、広島東洋カープ一筋で17年間のキャリアを歩みました。現役引退後はカープのコーチを13年間務め、現在は球団が運営するベースボールクリニックで未来の球児たちを指導しています。

プロ入り前夜

幼少期に父親とのキャッチボールで野球に親しみ、小学校3年生で少年野球チームに入団。奥田中学では当初投手でしたが、2年生からは外野手に転向しました。富山商業高校に進学後は、1年生の夏には早くもベンチ入り。県大会決勝では進藤達哉を擁する高岡商業高校に敗れましたが、秋には中堅手のレギュラーを獲得しました。2年夏、3年夏と連続で夏の甲子園に出場。3年夏の一回戦で放った本塁打は、今も良い思い出として語られています。

俊足巧打の外野手として注目され、卒業後は社会人野球の日本IBM野洲への内定を得ていましたが、1989年のドラフト会議で広島東洋カープから6位指名を受けます。横浜大洋ホエールズからのドラフト外での獲得話や社会人入りの選択肢もありましたが、自身の意思でカープへの入団を決意しました。当時の契約金は2500万円、年俸は360万円（いずれも推定）でした。

カープでの現役時代：代打の切り札へ

プロ入り後は、同期の前田智徳の卓越した打撃技術に刺激を受けます。1990年にはチームメイトとともにアメリカのパイオニアリーグへ派遣され、異文化の中で野球観を広げました。帰国後は二軍で内田順三コーチらの指導を受け、徹底した練習で技術を磨きます。

1993年に念願の一軍デビューを果たしますが、すぐにレギュラー定着とはいきませんでした。転機が訪れたのは1995年。前田の故障により一軍に昇格すると、6月15日の対横浜戦でプロ初安打、7月1日の対巨人戦ではプロ初本塁打を含む2本塁打の活躍を見せ、この年打率.303をマークし一軍に定着しました。

1996年には打率.339と高打率を記録しますが、ファウルボールによる右手の骨折で離脱。しかし、代打成功率は.453という驚異的な数字を残しました。当時のカープ外野陣には前田、金本知憲、緒方孝市といった実力者が揃っており、レギュラー奪取は困難でした。代打で結果を出し続けたことで、「代打の切り札」という役割が固定化されていくことになります。

1997年オフには結婚。

1998年は一塁手のレギュラーを争い、金本欠場時には5番打者として起用され本塁打を放つなど、100試合以上に出場しキャリアハイの75安打を記録しました。1999年は打率が低迷しましたが、セ・リーグオールスター東西対抗に出場。

2000年にはサヨナラ満塁本塁打を放つなど勝負強さを発揮。故障した緒方の代わりに外野でスタメン出場する機会もあり、自己最多の13本塁打、46打点を記録しました。

2001年には守備でフェンスに激突し右膝を負傷するも出場を続行。オフには地元の富山で少年野球教室を開催しました。2002年は代打を中心に打率.308を記録し、年俸も大幅アップ。

2003年には新井貴浩の三塁コンバートに伴い一塁でのスタメンが増え、ここでも好調な打撃を見せました。2004年には巨人戦で代打逆転満塁本塁打という劇的な一打を放ち、改めて勝負強さを示しました。この年FA権を取得しましたが、「カープで優勝したい」という思いから権利を行使せず残留を決意。代打としてセ・リーグ歴代5位タイとなる20打点をマークしました。

2005年からは内野手登録に変更。2006年、メニエール病の発症もあり戦力構想から外れますが、球団は彼の勝負強さと野球理論を高く評価し、コーチ就任を打診。本人の了承を得て、10月14日に現役引退を表明しました。10月16日の引退試合では最終打席でセンター前ヒットを放ち、セレモニーではファンやチームへの感謝を述べ、涙ながらに「カープが大好き」と語りました。同期の前田もこの試合で浅井のために奮起し、4安打を放つ活躍を見せました。

引退後の活動

現役引退後、浅井氏はすぐに広島カープの二軍打撃コーチに就任。2010年からは一軍打撃コーチ、2013年からは三軍統括コーチとして後進の指導にあたりました。2019年シーズン終了をもってコーチ契約を満了。

2020年からは球団編成部の編成課長兼ベースボールクリニックコーチという、球団初の専属指導者として新たな道を歩んでいます。2021年度からは、彼の名前を冠した「カープ浅井打撃塾」として、少年野球の普及・指導に力を入れています。また、地元メディアの野球中継で解説を務めるなど、多方面で野球界に貢献しています。

傑出した代打成績とプレースタイル

浅井氏は左の強打者として評価されていましたが、同時代に前田、金本、緒方といったトッププレーヤーがいたため、レギュラーの座を掴むまでには至りませんでした。しかし、他球団であればレギュラーとして活躍できたと評されるほどの実力があり、球団からはレギュラーに遜色ないスーパーサブとして高く評価されていました。特に夏場に調子を上げることから「夏男」とも呼ばれました。

右打者の町田公二郎とともに、カープの強力な代打陣を形成。通算代打起用数は歴代5位の582回、代打安打は歴代3位の154本、そして起用数300回以上の代打打率では歴代2位の.315という驚異的な数字を残しています。通算サヨナラ安打7本のうち3本がサヨナラ本塁打であり、その勝負強さは球界屈指と称されました。山本浩二監督（当時）は、「ベンチにいるだけで相手投手にプレッシャーを与えられる」と評価しています。

打撃フォームはバットを高く掲げ、一本足でタイミングを取る独特のスタイルでした。入団当初は長打狙いの豪快なスイングが持ち味でしたが、代打として定着してからは、ホームランよりも状況に応じた巧みな打撃を心掛けました。センター返しや逆方向への流し打ちも得意とする器用さも兼ね備えていました。

外野手登録が主でしたが、一塁守備にも定評がありました。また、代走として起用される場面もあり、3試合連続盗塁を成功させたこともあります。1995年から2004年まで10年連続で三塁打を記録したことからも、その俊足ぶりがうかがえます。試合中にユニフォームの袖をまくり上げて筋肉を見せ、相手投手を威嚇する仕草も特徴的でした。

中日ドラゴンズで活躍した井上一樹氏とは、同い年、同期入団、左投げ左打ちと多くの共通点があり、風貌も似ていると言われていました。

主な記録

初出場：1993年4月18日 対巨人戦
初安打・初打点：1995年6月15日 対横浜戦
初本塁打：1995年7月1日 対巨人戦
1000試合出場：2005年7月27日 対ヤクルト戦（史上405人目）
通算代打成績：
起用数：582回（歴代5位）
安打：154本（歴代3位）
打率（300起用以上）：.315（歴代2位）

背番号

61 （1990年 - 1994年）
36 （1995年 - 1996年）
6 （1997年 - 2006年）
82 （2007年 - 2019年、コーチ）

「ミスター・カープ」とも称される前田智徳と同期入団でありながら、異なる形でチームに貢献し続けた浅井樹氏。その勝負強い打撃とカープへの深い愛情は、今も多くのファンに記憶されています。少年野球指導者として、彼の野球への情熱は受け継がれています。

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