浅妻船

朝妻船（あさづまぶね）について

朝妻船は、滋賀県の琵琶湖畔に位置する朝妻（米原市朝妻筑摩）と大津を結ぶ渡船です。この航路は、東山道の一部として重要な役割を果たしていました。朝妻という地名は、『和名抄』において「安佐都末」と記されており、朝妻川の入江の近くに存在しました。歴史的に、船舶が頻繁に出入りする賑わいを見せており、多くの人々が利用していたことがうかがえます。

しかし、慶長年間（1596年 - 1615年）からこの航路の便利さが米原に取って代わることで、次第に朝妻はその繁栄を失っていきました。この辺りの歴史は興味深く、特に寿永の乱（1180年 - 1185年）における平家の都落ちにおいて、女房たちが「浮かれ女」として生活を変えたところにも名残を見ることができます。彼女たちは朝妻に残り、客を求めて入江に船を流していたのです。

このような光景は、絵師英一蝶（1652年 - 1715年）によって描かれた「朝妻舟図」で特に有名です。この絵には、烏帽子や水干をまとった白拍子風の遊女が描かれ、鼓を前に置いて船に乗っています。この作品は、五代将軍徳川綱吉と柳沢吉保の妻との情事を暗示しているとも言われており、その内容が反響を呼んだために、英一蝶が島流しにされたという逸話まで残っています。

英一蝶が作り上げた小唄には、次のような歌詞が含まれています。「仇しあだ浪、よせてはかへる浪、朝妻船のあさましや、ああまたの日は誰に契りをかはして色を、枕恥かし、いつはりがちなるわがとこの山、よしそれとても世の中」。この歌詞の中の「わがとこの山」は、犬上郡の鳥籠山を指しており、床の山の名にかけられています。

また、朝妻の文化においては、長唄なども作られ、地域の音楽活動が盛んでした。朝妻船やその周辺の歴史は、江戸時代の風俗や人々の暮らしを知る上で欠かせない要素となっています。朝妻船の存在は、単なる交通手段だけでなく、当時の人々の心情や文化を象徴する重要な歴史的遺産でもあるのです。

このように朝妻船は、琵琶湖の歴史の中で特異な位置を占める航路でした。その歴史や文化は時を越え、現在の人々にも多くの影響を及ぼしています。

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