浅草公園水族館

浅草公園水族館：日本初の私設水族館から軽演劇の舞台へ

浅草公園水族館は、かつて東京の浅草に存在した水族館で、その歴史は明治時代に遡ります。通称「浅草水族館」として親しまれていました。

開業と初期の様子

1899年（明治32年）10月15日、浅草公園四区の勧工場「共栄館」を改築して開館しました。これは日本初の私設水族館であり、当時の人々に大きな驚きと感動を与えました。館長は水産伝習所初代事務局長の太田實が務め、海水魚のために千葉県富津沖から海水を運ぶという、当時としては画期的な試みが行われました。館内には15の水槽が設置され、地下には食堂、2階には「余興場」がありました。入場料は大人5銭、子供3銭でした。

また、同年には水族館の解説書として、瞰海堂が発行した『東京名物浅草公園水族館案内』が刊行されました。これは日本初の水族館解説書として、その後の水族館運営にも大きな影響を与えました。

カジノ・フォーリーの誕生

1929年（昭和4年）、浅草公園水族館の2階にあった「余興場」が、新たな展開を迎えます。興行師の桜井源一郎が、石田守衛に演芸を提案し、石田が榎本健一を誘い、軽演劇の劇団「カジノ・フォーリー」が旗揚げされました。この劇団は、作家・川端康成が同時期に新聞連載した小説『浅草紅団』によって、全国的にその名を知られるようになりました。

しかし、「カジノ・フォーリー」は1933年（昭和8年）に解散し、水族館自体の閉館時期は不明ですが、1935年（昭和10年）に撮影された写真や、1939年（昭和14年）から1940年（昭和15年）にかけて発表された小説では、すでに廃墟として描かれています。

周辺施設の変遷

浅草公園水族館の周辺も、時代とともに変化していきました。1907年（明治40年）には、昆虫学者の名和靖が隣接地に「通俗教育昆虫館」を設立。その後、1923年（大正12年）の関東大震災以降には「木馬館」と名を変え、安来節を中心とした演芸場として生まれ変わりました。

浅草公園水族館の遺産

浅草公園水族館は、その短い歴史の中で、日本の水族館の先駆けとして、また大衆文化の中心地として、重要な役割を果たしました。その詳細な調査研究は、鈴木克美氏によって『浅草公園水族館覚え書』として記録されており、この水族館の歴史と意義を今日に伝えています。

関連書籍

藤野富之助『東京名物浅草公園水族館案内』、瞰海堂、1899年
川端康成『浅草紅団』、東京朝日新聞、1929年 - 1930年

関連事項

カジノ・フォーリー
木馬館

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