カジノ・フォーリー

カジノ・フォーリーは、昭和初期に浅草を拠点に活動した軽演劇団です。この劇団は、その短い活動期間にもかかわらず、浅草のエンターテイメント文化に大きな足跡を残しました。

創立と初期

カジノ・フォーリーは、1929年7月10日に桜井源一郎によって創設されました。場所は浅草公園水族館の2階にある余興場でした。この劇団の誕生は、かつての浅草オペラの隆盛から数年後、関東大震災後の浅草に再び活気を取り戻そうとする動きの中で起こりました。エノケンこと榎本健一は、サイレント映画の端役を経て、中根龍太郎喜劇プロダクション解散後に浅草に戻り、石田守衛に誘われてこの劇団に参加しました。旗揚げには、徳永政太郎や内海正性、中村是好といった面々も名を連ねました。

劇団名は、パリの二つの有名なミュージックホール「カジノ・ド・パリ」と「フォリー・ベルジェール」にちなんで名付けられました。カジノ・フォーリーは、フランスのレヴュー形式を取り入れた喜劇劇団として、当時の観客に新しいエンターテイメントを提供しました。

しかし、最初のカジノ・フォーリーはわずか2ヶ月で解散してしまいます。

第二次カジノ・フォーリー

第一次解散の翌月、1929年10月には、榎本健一を代表として、間野玉三郎、中村是好、堀井英一の4人で、第二次カジノ・フォーリーが再発足します。梅園龍子、花島喜世子（後の榎本健一の妻）、吉住芳子、山原邦子、山路照子、三條綾子、望月美恵子などが出演し、劇団は再び活気を取り戻しました。

この時期、小説家の川端康成や武田麟太郎、堀辰雄などが常連客として劇場を訪れていました。特に川端康成は、この頃の経験をもとに小説『浅草紅団』を執筆し、カジノ・フォーリーの様子を生き生きと描き出しました。また、堀辰雄は、踊り子との交際を小説『聖家族』に描いています。

1930年には、二村定一や竹久千恵子が劇団に加わりましたが、同年8月には榎本健一が二村定一、武智豊子と共に脱退し、「新カジノ・フォーリー」を立ち上げ、劇団は一時的に分裂します。

分派と解散

榎本健一が立ち上げた「新カジノ・フォーリー」は、サトウハチローを文芸部長に迎え、菊田一夫も加入しましたが、わずか2ヶ月で解散しました。その後、榎本健一は「プペ・ダンサント」に参加し、さらに「ピエル・ブリヤント」を設立するなど、浅草の舞台で活動を続けました。

一方、第二次カジノ・フォーリーは、1931年には文芸部がパンフレットを発行し、武田麟太郎、川端康成、林芙美子など多くの文化人が寄稿しました。1932年には山茶花究が歌手としてデビューするなど、新たな展開もありましたが、1933年3月に劇団は解散しました。

カジノ・フォーリーは、昭和初期の「エロ・グロ・ナンセンス」の時代を反映し、歌と踊り、風刺ギャグを交えた喜劇で人気を博しました。その活動期間は短かったものの、浅草のエンターテイメント史において重要な存在として記憶されています。

カジノ・フォーリーに関連する人々や作品

カジノ・フォーリーの歴史を語る上で、以下の人々や作品は欠かせません。

榎本健一：劇団の看板俳優であり、後には独立して「新カジノ・フォーリー」を設立しました。
川端康成：小説『浅草紅団』で、カジノ・フォーリーの様子を生き生きと描きました。
武田麟太郎：文芸パンフレットに寄稿するなど、劇団を支援しました。
堀辰雄：踊り子との交流を自身の作品に描きました。
山茶花究：劇団で歌手デビューを果たしました。
『浅草紅団』：川端康成の小説で、カジノ・フォーリーが舞台となっています。

これらの要素が組み合わさることで、カジノ・フォーリーは単なる劇団以上の、浅草の文化を象徴する存在となったのです。

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